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認知症高齢者は何人いるの? ~なぜ10年前の推計が今でも使われるのか~
阿部 崇
2012年の介護保険制度見直し、介護報酬改定(診療報酬との同時改定)に向けて各論の議論が行われている。制度見直しは高齢化の進行に伴う財源不足に働きかける項目がメインとなっているが、もう一つ重要な柱となっているのが「認知症を有する人への対応」である。
さて、最近の社会保障審議会等の行政資料では、介護保険制度を取り巻く状況として、「75歳以上の高齢者の増加」、「認知症高齢者の増加」、「単身・夫婦のみ高齢者世帯の増加」、「都市部の高齢者の増加」という“4増傾向”が繰り返し示されている。制度見直しや報酬改定は、それら4つの増加に対応する形で議論が進められているものが多い。例えば、介護サービス利用の頻度が高まる75歳以上高齢者の増加は、サービス需給バランスに大きな影響を与え、家族介護を期待できない単身・夫婦のみ高齢者世帯の増加は24時間対応型のサービス類型の根拠の一つになった。4増傾向はいずれも統計・推計が示され、エビデンスベースの議論の出発点となっている。
ここで着目したいのは、4増傾向の1つである「認知症高齢者の増加」に関する統計・推計には、約10年前の「2002年」のデータが用いられている点である。年齢階級別の人口や世帯数とは異なり、認知症高齢者数については、ここ10年の国民意識の変化による早期発見、医師やケアスタッフの取り組みによる早期診断・早期対応等の環境変化に影響されるものであり、実数は押し上げられているはずである。制度見直しの重要項目である「認知症を有する人への対応」の起点となるはずの「認知症高齢者」の数量的な把握について、10年前のデータが使われ続けていることに違和感を覚える。
確かに、認知症高齢者については、どのような基準を用いて人数を把握するのが適当か、という議論が一方ではある。しかし、2002年のデータで基準として用いている「認知症高齢者の日常生活自立度※」は現在でも要介護認定の仕組みの中で利用されるものであり、ひとまずは同じ基準での推計の更新が行われてもおかしくはない。要介護認定の手続の中で市町村等に蓄積されたデータを用いることは難しいことではないだろう。
「認知症」というものが広く国民に浸透し、治療・薬剤やケア理論・技術も大きく進化をとげる中で、介護保険サービスをはじめ、制度内外での様々な仕組み作りが検討される場に、(おそらく増加しているであろう)最新の実績値および将来推計値が出されないのは何か特別な理由があるのだろうか。(数年前に調査を実施したとの話もあったが結果は公表されていない)
仮に直近の実績値が、10年前に推計された「2015年250万人」に近いまたは上回るようであれば、この推計値を基準にした準備では、来春の制度見直し・報酬改定直後に“量的”はもちろんのこと、“質的”にも認知症高齢者に対応したサービスは供給不足に陥る可能性が高い。
10年前の推計値を拠り所に予算内で“たくさんの”施策を“全て”実施することより、現実的な推計値によって優先順位の高い施策を着実に実施することが重要なのではないだろうか。
※1993年に厚生省(当時)が示した認知症の状態別に5段階評価した基準。統計では、認知症高齢者は「ランクII(日常生
活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが見られても、誰かが注意していれば自立)」より状態が重い
人とされる。
阿部 崇
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