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コラム
2011年02月01日
米国では2008年9月に発生したリーマンショックによる金融システムの混乱を契機に、今後の金融規制の枠組みを構築するための規制改革が進められてきた結果、その集大成ともいうべき金融規制改革法(ドッド・フランク法)が2010年7月に成立した。ドッド・フランク法成立により、いわゆるシステミック・リスク対応のための横断的監督機関の設置、クレジット・デフォルト・スワップ等デリバティブ市場の規制充実および金融商品(除保険)に対する新たな規制機関の設置等金融システムの安定化と消費者保護を確保するための広範な枠組みが導入されることとなった。
ところで、今改正における保険規制に関連する項目を見ると、今回の一連の危機の中で保険規制固有の分野では相対的に顕著な問題が発生しなかったこともあり、最も基本的な機能である州による保険業の一般的監督権限が引き続き確保されることとなった。
周知のとおり米国では州が保険業を監督している。州規制は1945年に成立したマッカラン・ファーガソン法を根拠とし、同法制定以降も連邦規制導入に関する連邦議会の関心はその時々の情勢に応じて盛衰はあったものの、州規制は現在まで堅持されてきた。
このように、ドッド・フランク法では保険業に対する一般的監督権限が引き続き州に留保されたとはいうものの、一方において将来の保険監督規制を考慮する上で要となる機関として、連邦保険局(Federal Insurance Office、FIO)が財務省内に設置されるこことなった点は注目に値する。これにより、連邦政府において初めて保険専管の組織が導入されることとなった。
連邦保険局の機能は、保険業に対する一般的監督権限はないものの、(i)保険業界全般の監視(システミック・リスクに対する保険規制上の不備発見等)、(ii)システミック・リスクの可能性ある保険会社の担当監督機関への推薦、(iii)国際保険問題(健全性規制)に関する連邦活動の調整および連邦政策の策定、(iv)国際協定と矛盾する州保険法を一部無効とする権限、(v)保険規制現代化・改善のための調査・議会宛報告等広範に及び、州による保険業固有の監督領域の周辺を埋め合わす格好となっている。
これを州の保険規制全体という観点から見ると、州側は、(i)システミック・リスクおよび国際協定(健全性規制)に配慮した規制を維持する必要性に迫られる、(ii)保険規制現代化・改善に関する継続的調査により規制の現状が常にチェックされ、規制改革努力が従来以上に問われることとなる。
一方で、1990年代以降に進展した金融のグローバリゼーションや金融制度改革(持ち株会社方式による銀・証・保相互乗り入れの実現)により、大手を中心とする保険業界の中には金融機関との間の競争力強化の観点から、2000年代に入り連邦規制(連邦免許一本で全米展開可能な保険会社制度)の導入を指向する意欲が根強いものとなっている。
今回のドッド・フランク法では保険業界が望むような形での連邦規制導入までは至らなかったものの、上述のようなルートでの州規制の刷新圧力は従来以上に高まることが期待されることから、州規制のいっそうの効率化(調和化)が進展すれば、コンプライアンス・コストの引き下げを通じての競争力向上が見込まれることにもなる。
それにもかかわらず、州規制の効率化が予想どおり進展しない場合には、連邦保険局を足場とした連邦規制導入圧力が一段と高まることも想定されることから、保険業界においてはドッド・フランク法後の州の規制改革の進捗状況に対してはいっそうの関心がよせられるものと考えられる。
ところで、今改正における保険規制に関連する項目を見ると、今回の一連の危機の中で保険規制固有の分野では相対的に顕著な問題が発生しなかったこともあり、最も基本的な機能である州による保険業の一般的監督権限が引き続き確保されることとなった。
周知のとおり米国では州が保険業を監督している。州規制は1945年に成立したマッカラン・ファーガソン法を根拠とし、同法制定以降も連邦規制導入に関する連邦議会の関心はその時々の情勢に応じて盛衰はあったものの、州規制は現在まで堅持されてきた。
このように、ドッド・フランク法では保険業に対する一般的監督権限が引き続き州に留保されたとはいうものの、一方において将来の保険監督規制を考慮する上で要となる機関として、連邦保険局(Federal Insurance Office、FIO)が財務省内に設置されるこことなった点は注目に値する。これにより、連邦政府において初めて保険専管の組織が導入されることとなった。
連邦保険局の機能は、保険業に対する一般的監督権限はないものの、(i)保険業界全般の監視(システミック・リスクに対する保険規制上の不備発見等)、(ii)システミック・リスクの可能性ある保険会社の担当監督機関への推薦、(iii)国際保険問題(健全性規制)に関する連邦活動の調整および連邦政策の策定、(iv)国際協定と矛盾する州保険法を一部無効とする権限、(v)保険規制現代化・改善のための調査・議会宛報告等広範に及び、州による保険業固有の監督領域の周辺を埋め合わす格好となっている。
これを州の保険規制全体という観点から見ると、州側は、(i)システミック・リスクおよび国際協定(健全性規制)に配慮した規制を維持する必要性に迫られる、(ii)保険規制現代化・改善に関する継続的調査により規制の現状が常にチェックされ、規制改革努力が従来以上に問われることとなる。
一方で、1990年代以降に進展した金融のグローバリゼーションや金融制度改革(持ち株会社方式による銀・証・保相互乗り入れの実現)により、大手を中心とする保険業界の中には金融機関との間の競争力強化の観点から、2000年代に入り連邦規制(連邦免許一本で全米展開可能な保険会社制度)の導入を指向する意欲が根強いものとなっている。
今回のドッド・フランク法では保険業界が望むような形での連邦規制導入までは至らなかったものの、上述のようなルートでの州規制の刷新圧力は従来以上に高まることが期待されることから、州規制のいっそうの効率化(調和化)が進展すれば、コンプライアンス・コストの引き下げを通じての競争力向上が見込まれることにもなる。
それにもかかわらず、州規制の効率化が予想どおり進展しない場合には、連邦保険局を足場とした連邦規制導入圧力が一段と高まることも想定されることから、保険業界においてはドッド・フランク法後の州の規制改革の進捗状況に対してはいっそうの関心がよせられるものと考えられる。
(2011年02月01日「研究員の眼」)
小松原 章
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