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コラム
2010年09月01日
東京から大阪に新幹線で出張する場合、乗車券は少し遠くまで買った方が安いことをご存知だろうか? ほとんどのケースで大阪市内までの往復の乗車券が購入されているだろうが、その値段は17020円。これに対して大阪より50km以上遠い明石までの往復で買うと16820円で190円安い。どうしてかというと、JRの規則では片道600kmを超える乗車券を往復で買うと1割の往復割引が適用されることになっており、東京から明石までの距離は609kmでこの要件を満たすからである(片道9350円×0.9=8410円 ※端数切捨て/片道8410円×2=16820円)。これに対して大阪までは片道8510円で明石までより840円も安いが、600km以下で往復割引の適用がないため、8510円×2=17020円となる。うろ覚えで大阪より遠くまで買う方が安かったと思って神戸まで買うと悲惨だ。東京から神戸までは589kmで600kmに僅かに届かないため往復割引の適用はなく、9030円×2=18060円も負担することになってしまう。
JRの運賃の別の例。東京から熱海まで往復するのに、1つ手前の湯河原で用事があって行きは在来線。湯河原まで買って1620円+湯河原熱海間一駅で180円=1800円。帰りは新幹線で1890円。分けて買った方が90円安い(このように分割して買った方が安い区間を紹介したサイトがネット上にいくつもある)。東京熱海間は105km。JRの運賃は100km超120km以下が一本で1890円。105kmの東京熱海間は割高になってしまうのだ。
JRの運賃は一般に片道50kmまでは5km刻み、100kmまでは10km刻み、600kmまでは20km刻み、600km超は40km刻みで設定されている。こうした仕組みは、かつて窓口で駅員さんが切符を手売りしていた時代には必然であったろう。無数に近い行き先を一定数の区分に分類することで事務の効率化を図っていた訳だ(前記の刻みなら1000kmまでの行き先は50の区分に分類される)。年配の方の中には、駅員さんが硬券の仕分けケースのようなものから切符を抜き出して販売していたことを覚えている方もおられるだろう。
往復割引の適用の有無が600kmで区分される理由はよく分からないが(前記の運賃の刻みの設定で600kmが1つの節目となっていることは確かだが)、いずれにせよ、こうした仕組みは「ガケ」を発生させ、その周辺でこれまで述べたような歪みを生じさせる。・・・と、ここまでは鉄道オタクのマニアックなつぶやきに過ぎないが、こうした問題は鉄道にとどまるものではない。
たとえば、「103万円の壁」ということが以前よくいわれた。これは、サラリーマンの妻がパートなどで勤務していて、年収が103万円までであれば、自らに所得税がかからないだけでなく、夫の所得税計算において配偶者控除(38万円)の対象となるが、103万円を超えれば配偶者控除がなくなって夫の所得税が一気に増加することによって、妻の収入が多少増えても世帯の手取りは減るケースがある、というものだった。女性の労働意欲を削ぎ社会進出を阻害するものだとして批判を浴びたが、スムージング機能を有する配偶者特別控除の導入により、この問題は政策的に解決されている(「130万円の壁」の問題は残っているが、こちらは「ガケ」の問題ではなく、社会保険は世帯単位であるべきか個人単位であるべきかといった性格の問題であろう)。
厚生年金や健康保険の保険料算定に使用される標準報酬月額は、4-6月の残業料・通勤交通費などを含む平均給与を、給与水準が20-30万円台の場合は2万円刻み、40-60万円台の場合は3万円刻みに丸めて決定し(たとえば3カ月の平均給与が29万円以上31万円未満の場合は標準報酬月額30万円。48.5万円以上51.5万円未満の場合は50万円)、それを向こう1年間適用する。現在の社会保険料(厚生年金、健康保険、介護保険)の個人負担分は協会けんぽの場合で13%強(40歳以上の場合)なので、標準報酬月額の段階が1つ上がれば、2万円刻みの場合で3000円弱、3万円刻みの場合で約4000円、毎月の負担が増えることになる。極端な場合は、平均給与の1円、10円の違いで毎月の社会保険料負担が数千円単位で変わってくる訳だ。また、決算関係の職場など4-6月に残業が多い職場は不利である。
おそらく事務の効率化という見地からこういう仕組みが採用されたのだろうが、IT化が進んだ現在においては、上限は設けるとしても、こうした「ガケ」は作らず、雇用保険のように、給与の額あるいは年収の額そのものをベースにすればよいのではないだろうか(鉄道オタクに戻れば、JRの運賃は1km単位で計算すればよい。何百何千通りの運賃ができても現在なら何ら困らない)。
ともあれ、今後大阪出張の機会があれば、一度明石まで足をのばして明石蛸など賞味されてはどうだろうか。もちろん神戸で途中下車して神戸牛のステーキを堪能することもできる。
JRの運賃の別の例。東京から熱海まで往復するのに、1つ手前の湯河原で用事があって行きは在来線。湯河原まで買って1620円+湯河原熱海間一駅で180円=1800円。帰りは新幹線で1890円。分けて買った方が90円安い(このように分割して買った方が安い区間を紹介したサイトがネット上にいくつもある)。東京熱海間は105km。JRの運賃は100km超120km以下が一本で1890円。105kmの東京熱海間は割高になってしまうのだ。
JRの運賃は一般に片道50kmまでは5km刻み、100kmまでは10km刻み、600kmまでは20km刻み、600km超は40km刻みで設定されている。こうした仕組みは、かつて窓口で駅員さんが切符を手売りしていた時代には必然であったろう。無数に近い行き先を一定数の区分に分類することで事務の効率化を図っていた訳だ(前記の刻みなら1000kmまでの行き先は50の区分に分類される)。年配の方の中には、駅員さんが硬券の仕分けケースのようなものから切符を抜き出して販売していたことを覚えている方もおられるだろう。
往復割引の適用の有無が600kmで区分される理由はよく分からないが(前記の運賃の刻みの設定で600kmが1つの節目となっていることは確かだが)、いずれにせよ、こうした仕組みは「ガケ」を発生させ、その周辺でこれまで述べたような歪みを生じさせる。・・・と、ここまでは鉄道オタクのマニアックなつぶやきに過ぎないが、こうした問題は鉄道にとどまるものではない。
たとえば、「103万円の壁」ということが以前よくいわれた。これは、サラリーマンの妻がパートなどで勤務していて、年収が103万円までであれば、自らに所得税がかからないだけでなく、夫の所得税計算において配偶者控除(38万円)の対象となるが、103万円を超えれば配偶者控除がなくなって夫の所得税が一気に増加することによって、妻の収入が多少増えても世帯の手取りは減るケースがある、というものだった。女性の労働意欲を削ぎ社会進出を阻害するものだとして批判を浴びたが、スムージング機能を有する配偶者特別控除の導入により、この問題は政策的に解決されている(「130万円の壁」の問題は残っているが、こちらは「ガケ」の問題ではなく、社会保険は世帯単位であるべきか個人単位であるべきかといった性格の問題であろう)。
厚生年金や健康保険の保険料算定に使用される標準報酬月額は、4-6月の残業料・通勤交通費などを含む平均給与を、給与水準が20-30万円台の場合は2万円刻み、40-60万円台の場合は3万円刻みに丸めて決定し(たとえば3カ月の平均給与が29万円以上31万円未満の場合は標準報酬月額30万円。48.5万円以上51.5万円未満の場合は50万円)、それを向こう1年間適用する。現在の社会保険料(厚生年金、健康保険、介護保険)の個人負担分は協会けんぽの場合で13%強(40歳以上の場合)なので、標準報酬月額の段階が1つ上がれば、2万円刻みの場合で3000円弱、3万円刻みの場合で約4000円、毎月の負担が増えることになる。極端な場合は、平均給与の1円、10円の違いで毎月の社会保険料負担が数千円単位で変わってくる訳だ。また、決算関係の職場など4-6月に残業が多い職場は不利である。
おそらく事務の効率化という見地からこういう仕組みが採用されたのだろうが、IT化が進んだ現在においては、上限は設けるとしても、こうした「ガケ」は作らず、雇用保険のように、給与の額あるいは年収の額そのものをベースにすればよいのではないだろうか(鉄道オタクに戻れば、JRの運賃は1km単位で計算すればよい。何百何千通りの運賃ができても現在なら何ら困らない)。
ともあれ、今後大阪出張の機会があれば、一度明石まで足をのばして明石蛸など賞味されてはどうだろうか。もちろん神戸で途中下車して神戸牛のステーキを堪能することもできる。
(2010年09月01日「研究員の眼」)
明田 裕
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