2010年05月19日

急増する赤字地方債と地方交付税制度-赤字地方債発行の動向とその背景-

石川 達哉

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1.  地方公共団体の普通建設事業額は1990年代末から縮減が続けられたことにより、2008年度決算時にはピーク時の41%の水準にまで低下し、歳出総額の15%を占めるにとどまっている。事業資金を賄うために発行される建設地方債の発行額も95年度は14兆円を上回っていたが、2008年度は6兆円を下回っている。 

2.  近年は臨時財政対策債、減収補填債、退職手当債などの所謂「赤字地方債」の発行額が増加し、2009年度は普通会計における地方債発行同意額の1/2以上をこれら3種類の地方債が占めるまでに至った。さらに、2010年度の地方債計画では、臨時財政対策債単独で普通会計における発行総額の1/2を超える7.7兆円が予定されている。

3.  臨時財政対策債は国による地方交付税算定の過程で基準財政需要額からの一部振替分として発行が計画されるもの、減収補填債は交付税算定時の地方税収見込額と正確な実績見込額との差額を精算調整する際の一手段として年度末に発行予定が決まるものであり、地方交付税を補完する仕組みとして、国の定めたルールに基づいて発行可能額が算定される。このため、個々の地方公共団体の財政運営の結果や財政規律と発行額とは関係がない。

4.  臨時財政対策債や減収補填債が地方交付税に準ずる役割を果たせるのは、後年度に元利償還金が交付税の算入対象とされて、実質的に資金補填されるためである。発行額が急増した理由は、法定率に基づく地方交付税のみでは不足する額をすべて加算措置で対応したり、交付税の精算調整をすべて翌年度の交付税算定時に行ったりするには、国の財源も足りないからである。

5.  臨時財政対策債や減収補填債に恒常的に依存する状況は、地方交付税制度の基盤が揺らいでいることを示すものでもある。国と地方の歳出の総額に改めるべき部分がないのなら、国税と地方税の水準が低過ぎると言える。歳出水準に見直しの余地があるのならば、国と地方の行政領域の分担や分野毎の「ナショナル・ミニマム」の水準にまで踏み込んだ再検討が必要である。 

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