コラム
2010年03月08日

子どもの貧困と子ども手当

土堤内 昭雄

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一億総中流社会といわれた日本が、いつの間にか大きな経済格差の国となった。平成21年10月に厚生労働省が発表した2007年調査値である相対的貧困率(可処分所得の中央値の半分に満たない世帯員の割合)は15.7%とOECD諸国の中でも極めて高くなっている。若年層の失業や非正規雇用が増加し世代間の経済格差が広がり、それが子どもの貧困という形でも顕在化している。親が健康保険料を支払えずに無保険となった子どもが病院にも掛かれないという事態が発生したり、高校の授業料を滞納して卒業できない子どもが増えるなど、貧困の世代間連鎖が始まっている。

先日、「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワークの準備会設立シンポジウムが開かれ、多くのNPO、マスコミ、教育関係者が集まった。その後、当面の緊急課題として今年3月に授業料等の滞納で卒業できない高校生を支援する集会も開かれた。そこには多くの国会議員も参集し、当事者である高校生たちの窮状に耳を傾けた。その結果、1週間後には厚生労働省の生活福祉資金貸付事業において滞納授業料を遡及して貸し付けるという支援策が決まり、鳩山政権が目指す政治主導の機動力が示されたことは朗報であった。

今年1月29日には『子ども・子育てビジョン』が閣議決定された。その基本理念は従来の「少子化対策」から「子ども・子育て支援」へ、そしてチルドレン・ファーストだ。その実現のための具体策として「子ども手当」が創設されることになり、子どもの育ち自体を支援するとの趣旨から所得制限も設けられなかった。しかし、経済状況が芳しくない中でこの手当が子どもの育ちに使われる保証はなく、本来の趣旨からすれば子育て・教育バウチャーのような使途を目的的に給付する方法も考慮すべきではないだろうか。

「子ども手当」は平成22年度予算では中学校卒業まで一人当たり月額1万3千円が支給される。当初の民主党マニフェスト案の半額に過ぎないが、それでも国庫負担金は約1兆5千億円にも上り、極めて大きな財政負担だ。しかし、わが国の家族関係社会支出の対GDP比をみると0.83%(2007年度予算ベースで4兆3,300億円)とヨーロッパ諸国の3分の1から4分の1程度となっており、「子ども手当」や公立高校の実質無償化が実現してもようやくヨーロッパ諸国の半分程度に近づくといった状況である。

イギリスではブレア政権が99年から重要政策課題として子どもの貧困撲滅に取り組んでおり、子どもの出生から社会に出るまでの子どもの育ちを支援する継続的な支援プログラムを展開している。その代表施策としては、「シュア・スタート」という、すべての子どもが確実に人生のスタートができるような早期教育や保育、家族支援、育児支援、親の就労支援を行っている。また、チャイルド・トラストファンドというすべての子どもを対象にした子どもが社会に巣立つときの支度金とも言うべき貯蓄制度がある。

わが国でも新たな『子ども・子育てビジョン』が示す「社会全体で子育てを支える」という基本理念を実現するためには、子どもの出生から成人に至るまでの継続的かつ包括的な支援を社会が行い、日本の将来を担う子どもたちが同じ人生のスタートラインに立てるような公正な社会づくりが求められる。それは次世代が夢と希望を持てる社会の大原則ではないだろうか。
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土堤内 昭雄

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