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- 急速に進む金融商品会計を巡る議論
コラム
2009年07月17日
いささか細かい話で恐縮だが、IASB(国際会計基準審議会)が、7月14日、「金融商品:分類と測定」と題する公開草案を公表した。これは、G20等から要請を受けたIASBが、金融危機の経験を踏まえ「金融商品会計処理の簡素化」をテーマとして検討を行ってきたものである。
たしかに細かいのであるが、企業会計のありかたに大きく影響する話題と考えられるので、少しコメントしてみたい。
今回の金融商品会計の見直し案では、金融資産・負債は大きく償却原価を適用するものと公正価値を適用するものとの二つに分類することとしている。株式には公正価値が適用される。
そして、株式など公正価値に従うものの価格変動に伴う損益は、
・損益計算書に直接反映するか、
・その他包括利益とするか
の二者択一となる。
今回議論されるべきは、これを採用した場合、従来採っていた、いわば売却という「実現行為」によって利益を計上するという考え方を大きく変更せざるを得ない、という点である。大きく変わるのは主として次の2点である。
1.改正案が実現すると、例えば株式についていわゆる益出しという行為は出来なくなる。
例を使って説明しよう。
ある年度Xに時価が100上昇し、その次の年度X+1に、(簡単のため価格変動がないとして)そのまま売却したとする。
従来の発想であれば、
(X年度)
その他の包括利益 100
(X+1年度)
売却益 100
その他の包括利益 ▲100
となり、純利益はX年度は 0、X+1年度は 100となるというものだ。
しかし、こうした処理は認められないのである。
保有資産が値上がりしたときには、売却という行為があろうがなかろうが、その時点で利益を計上すればそれで足りるという考え方なのである。(X年度の処理しか行う必要がない。)
2.株式の価格変動をその他の包括利益に計上する場合は、受取った株式配当もその他の包括利益にしか計上できない。
これは、株式配当が株式持ち分の増加と経済的価値は同一であるから、どちらもその他の包括利益に計上すべきとの考え方である。これも影響は大きい。
さて、経緯を少し振り返れば、利益指標としてなにが適切なのかは、従来から大きなテーマであった。IASBの中でも、財務諸表の表示プロジェクトが組織され、検討が重ねられてきた。一時期、純利益指標を廃止し、包括利益に一本化する案に傾いたが、わが国関係者の貢献もあり、純利益指標の維持と関連するリサイクル処理(実現損益の計上と包括利益の調整)の維持が2008年に合意されたばかりだった。しかし、今回はこれと相反する考え方なのである。財務諸表全体ではなく個別事項だからそれには拘束されないということなのだろうか。
IASBは、当期純利益という指標は操作性があるので指標として不適格との考え方のようである。言い換えれば、売却という行為ではじめて利益が「実現」したとする考え方は間違っている、とIASBは考えるのである。
以上述べたように、今回の会計処理変更は、単なる変更にとどまらず、会計思考の変更(立場によっては革新)を要求するものである。金融危機を踏まえた議論とはいえ、いささか急ピッチな検討という印象である。今回のいわば全面時価会計に向かう議論は、その効果、影響につき広く充分に議論されるべき課題と考えられる。
たしかに細かいのであるが、企業会計のありかたに大きく影響する話題と考えられるので、少しコメントしてみたい。
今回の金融商品会計の見直し案では、金融資産・負債は大きく償却原価を適用するものと公正価値を適用するものとの二つに分類することとしている。株式には公正価値が適用される。
そして、株式など公正価値に従うものの価格変動に伴う損益は、
・損益計算書に直接反映するか、
・その他包括利益とするか
の二者択一となる。
今回議論されるべきは、これを採用した場合、従来採っていた、いわば売却という「実現行為」によって利益を計上するという考え方を大きく変更せざるを得ない、という点である。大きく変わるのは主として次の2点である。
1.改正案が実現すると、例えば株式についていわゆる益出しという行為は出来なくなる。
例を使って説明しよう。
ある年度Xに時価が100上昇し、その次の年度X+1に、(簡単のため価格変動がないとして)そのまま売却したとする。
従来の発想であれば、
(X年度)
その他の包括利益 100
(X+1年度)
売却益 100
その他の包括利益 ▲100
となり、純利益はX年度は 0、X+1年度は 100となるというものだ。
しかし、こうした処理は認められないのである。
保有資産が値上がりしたときには、売却という行為があろうがなかろうが、その時点で利益を計上すればそれで足りるという考え方なのである。(X年度の処理しか行う必要がない。)
2.株式の価格変動をその他の包括利益に計上する場合は、受取った株式配当もその他の包括利益にしか計上できない。
これは、株式配当が株式持ち分の増加と経済的価値は同一であるから、どちらもその他の包括利益に計上すべきとの考え方である。これも影響は大きい。
さて、経緯を少し振り返れば、利益指標としてなにが適切なのかは、従来から大きなテーマであった。IASBの中でも、財務諸表の表示プロジェクトが組織され、検討が重ねられてきた。一時期、純利益指標を廃止し、包括利益に一本化する案に傾いたが、わが国関係者の貢献もあり、純利益指標の維持と関連するリサイクル処理(実現損益の計上と包括利益の調整)の維持が2008年に合意されたばかりだった。しかし、今回はこれと相反する考え方なのである。財務諸表全体ではなく個別事項だからそれには拘束されないということなのだろうか。
IASBは、当期純利益という指標は操作性があるので指標として不適格との考え方のようである。言い換えれば、売却という行為ではじめて利益が「実現」したとする考え方は間違っている、とIASBは考えるのである。
以上述べたように、今回の会計処理変更は、単なる変更にとどまらず、会計思考の変更(立場によっては革新)を要求するものである。金融危機を踏まえた議論とはいえ、いささか急ピッチな検討という印象である。今回のいわば全面時価会計に向かう議論は、その効果、影響につき広く充分に議論されるべき課題と考えられる。
(2009年07月17日「研究員の眼」)
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