コラム
2008年11月21日

J-REIT初の破綻を受けて~市場は不信の連鎖を遮断できるか~

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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10/9にニューシティ・レジデンス投資法人(NCR)が東京地裁に民事再生法適用を申請、J-REITとして初の破綻事例となった。賃貸不動産を保有する器でしかないJ-REITの破綻により、倒産隔離の仕組みなど制度に対する投資家の信頼は大きく低下し、翌10/10に東証REIT指数は▲12%急落。その後も世界的な金融危機の深刻化と相まって、11/20現在、東証REIT指数は年初比▲61%下落し低迷が続いている。

今回、民事再生を申請したNCRは、資産規模約1,800億円(105物件)の住宅特化型REITで、投資家の出資金909億円に対して、これまでの分配金累計額は113億円、最終取引日(11/7)時点の時価総額は26億円、上場後わずか4年での退場となった。

破綻に到った直接の原因は、(1)確たる資金調達の目処もなく、(2)ポートフォリオの10%以上にあたる277億円の大型物件取得を発表した後に、(3)購入資金の調達に失敗、(4)契約不履行に伴う55億円もの違約金が発生したためであり、この点に限れば、プロとして資産運用会社に求められる善管注意義務の欠如が招いた、NCR固有の事情と言えよう。しかし、右肩上がりのマーケットが続き多くの企業がREIT市場に参入する中で、いつの間にか市場全体の規律が緩み、投資主利益を最優先する受託者責任の精神が後退することはなかったであろうか?

物件取得に際する不動産鑑定業者への不適切な働きかけ、資産運用会社の利害関係者が負担すべき費用の投資法人への付け替え、投資主への事前説明もなく特定物件の取得を可能とする運用ガイドライン変更、割安価格での増資による分配金・投資主持分の希薄化など、法令違反として行政処分された事例は論外としても、一部のREITでこうした行為が生じてきたのが実際である。

仮に、受託者責任意識の希薄なREITを「BAD REIT」、その対極にある誠実なREITを「GOOD REIT」と呼ぶと、市場の信認回復には、一部の「BAD REIT」を市場から隔離し、残り多くの「GOOD REIT」に不信の連鎖を波及させないことが重要だ。

しかし、そもそも「BAD REIT」の元凶は、投資法人でなく資産運用会社である。にもかかわらず、NCRの再生スキームでも明らかなように、投資主による資産運用会社の解任・交替は、実質的に極めて難しい。運用全てを資産運用会社に委託するJ-REITでは、投資主と資産運用会社の間に、相互信頼を礎とした一定の緊張関係が求められるが、現状、「BAD REIT」に対する投資主のガバナンスは機能不全の状況にある。

こうした市場の信頼低下は、一般に、「レモン市場」として例えられる。市場にレモン(不良品)が紛れ込むと、買い手は不良品と良品との見分けがつかなくなり購入を控える結果、最終的に市場そのものがなくなってしまう危険性を孕んでいる。

破綻の連鎖というハードランディングは、絶対に回避しなければならない。そのためにも、例えば、官民共同で(仮称)「REIT再生機構」といったREIT運用の受け皿会社(セーフティネット)を創設できないか。資産運用会社が、投資主総会でこれまでの実績や方針について投資主に信を問うなり、投資主が資産運用会社の変更を提案できるようになれば、投資家の信認を得られないレモンは、いずれ市場から退場せざるを得ない。

10/28に、国土交通省主催の第3回「投資家に信頼される不動産投資市場確立フォーラム」が開催され、J-REIT再編の効果・必要性、資産運用会社の運用力強化、ファイナンスのあり方などについて意見交換が行われ、今後、同フォーラムより対応の方向性が示される予定だ。

しかし、足もとの市場は相互信頼が崩れ、レンダー(資金の貸し手)及びエクイティ投資家とも疑心暗鬼に陥っている。破綻したNCRの前期末(08.2月)時点における個人投資家は6,000人超、時価にして約65億円であった。時計の針は戻せないが、こうした被害が繰り返されぬよう、監督当局には市場再生のコミットメントと実効性ある方策の早期提示を期待したい。
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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