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コラム
2008年10月17日
株価下落が家計を直撃
このところの株価下落が家計の老後(準備)資金を直撃している。ゼロに近い預金金利や「貯蓄から投資へ」という国家的なスローガンの下で預貯金から株式や投資信託に資金をシフトし、臍をかんでいる人も少なくないだろう。しかしながら、冷たいようだが、銀行や証券会社に勧められたとはいえ、最終的には自らが判断した結果であり、やむを得ないと言うしかない。長い目で見ていくしかないだろう。
DC(確定拠出年金)への移行の問題
少し事情が違うのが、企業の退職給付におけるDB(確定給付年金)からDC(確定拠出年金)への移行である。定年時に一定の退職一時金や年金を受給できることが労働協約や就業規則で約束されていたものが、「うまく運用すれば従前の規定によるものを上回る額が受給できますよ」ということで、ある日、従業員に原資が渡される。もちろん銀行預金など元本確保型のものも運用の選択肢に含まれているが、それで運用したのでは、定年時に受け取る額は従前の規定によるものを大きく下回ってしまう。それでは損をした気になるということもあり、リスクをとって株式などで運用してきた人も少なくないのではないだろうか。
背景にある「退職給付会計」
こうしたDBからDCへの移行は国際的な潮流であり、米英等では、我が国よりはるかに速いスピードでシフトが進んでいる。企業が本業とは関わりのない資産運用のリスクを負いたくない、ということが基本だが、もう1つの背景として、国際会計基準における退職給付会計の導入が指摘できる。
退職給付会計は、一時金・年金を合わせたすべての退職給付を対象とし、保有する資産の額が将来の債務の現在価値を下回った場合、その差額を一定期間内に財務諸表上で認識することを求めている。また、将来の債務を現在価値に割り戻す際の割引率も保守的なものを用いることが求められ、債務は保守的に(大きめに)評価される。
企業のビヘイビアとしては、そうした負担を軽くし、本業以外の要因による財務諸表の変動を緩和すべく、DBからDCにシフトしようとするのは当然であろう。
退職給付会計は、一時金・年金を合わせたすべての退職給付を対象とし、保有する資産の額が将来の債務の現在価値を下回った場合、その差額を一定期間内に財務諸表上で認識することを求めている。また、将来の債務を現在価値に割り戻す際の割引率も保守的なものを用いることが求められ、債務は保守的に(大きめに)評価される。
企業のビヘイビアとしては、そうした負担を軽くし、本業以外の要因による財務諸表の変動を緩和すべく、DBからDCにシフトしようとするのは当然であろう。
部分最適を超えて
従業員に対する退職給付債務も一般の外部債務同様に企業の債務であることは間違いない訳で、これを適正に認識すべきことは当然であり、それが投資家や取引先の要求に沿うことになる。また、従業員に対する債務の履行が全うされるためにもこうした枠組みは必要だろう。しかし、こうした枠組みがDBからDCへの移行を加速させ、従業員の老後に向けての準備を不安定にしてしまうことも否めない。
なかなか解の見つからない難しいテーマではあるが、部分最適を超えた何らかの工夫が求められるのではなかろうか。
なかなか解の見つからない難しいテーマではあるが、部分最適を超えた何らかの工夫が求められるのではなかろうか。
(2008年10月17日「研究員の眼」)
明田 裕
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