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コラム
2008年06月16日
1.米国減速後の鍵を握る中国経済
1990年代以降世界経済は好調を続けてきたが、その背景には米国経済が高成長を続け、世界の輸出を吸収してきたということがある。この結果、単純化すれば米国一国が多額の経常収支の赤字を計上し、他の国々は経常収支の黒字が拡大していくという構図が続いていた。サブプライム問題が発生しなくてもいずれ国際収支の不均衡が維持不能になったのではないかという議論はあるが、旺盛な米国の需要が世界経済の牽引力となってきたことは明らかだ。
サブプライム問題が顕在化した後、07年後半から米国経済は年率1%を切る成長率に低下しており、減速が明らかだ。米国の輸入が減速していることは、これまで米国の経済成長にマイナスの寄与を続けていた純輸出が2007年にはプラスになっていることからもうかがえる。日本から米国向けの輸出も減速しているが、これを補っているのは中国など新興国向けの輸出だ。米国の住宅市場の回復にはまだ時間がかかるとみられ、これまでと違って米国の輸入拡大には期待できなくなっている。日本だけでなく世界経済が大幅な減速を免れるかどうかは、中国をはじめとした新興国の高成長が続くかどうかにかかっている。
サブプライム問題が顕在化した後、07年後半から米国経済は年率1%を切る成長率に低下しており、減速が明らかだ。米国の輸入が減速していることは、これまで米国の経済成長にマイナスの寄与を続けていた純輸出が2007年にはプラスになっていることからもうかがえる。日本から米国向けの輸出も減速しているが、これを補っているのは中国など新興国向けの輸出だ。米国の住宅市場の回復にはまだ時間がかかるとみられ、これまでと違って米国の輸入拡大には期待できなくなっている。日本だけでなく世界経済が大幅な減速を免れるかどうかは、中国をはじめとした新興国の高成長が続くかどうかにかかっている。
2.高度成長期の日本
高度成長期の日本では、高成長が続くと消費の拡大や設備投資の増加から、経常収支が赤字となって1ドル360円という為替レートが維持できなくなるという問題が発生した。国際収支の天井ということが言われたように、国際収支が赤字化して外貨準備が底を突くという問題は日本経済の成長速度を制約する大きな要因だったのである。一方、中国経済は昨年も実質11.9%という高成長を続けているにも関わらず、外貨準備は1兆5000億ドルを超えて増加を続けており、日本の1.5倍を優に超える。中国は高成長を続けながら、貿易収支の黒字は急拡大している。
高度成長期の日本と現在の中国との大きな違いは、中国では海外からの資本の流入が大きいことだ。国際金融が発達していなかった日本の高度成長期には、日本は海外からの資本を頼ることができず、国内の貯蓄のみによって経済成長に必要な投資をまかなう必要があった。また、日本自体も海外からの投資よりも国内資本による成長を志向したということもある。
高度成長期の日本と現在の中国との大きな違いは、中国では海外からの資本の流入が大きいことだ。国際金融が発達していなかった日本の高度成長期には、日本は海外からの資本を頼ることができず、国内の貯蓄のみによって経済成長に必要な投資をまかなう必要があった。また、日本自体も海外からの投資よりも国内資本による成長を志向したということもある。
3.歪な中国経済
しかし、中国のGDPの構成を、高度成長期の日本と比較すると、民間消費の割合が縮小傾向で三分の一程度と小さく、投資の割合が大きいことが目に付く。高度成長期の日本でも民間企業の設備投資意欲は旺盛だったが、民間消費の割合は5割以上あった。ちなみに、医療などの社会福祉がそれほど充実しているとも思えないにも関わらず中国の政府消費の割合が高いのは社会主義体制のなごりだろう。
北京オリンピックが終わった後も、震災の復興需要など政府投資が高い水準を続ける可能性が高いが、民間の投資はそれに見合う需要がなければ長続きしない。米国経済の減速が中国から米国向けの輸出の鈍化という形で現れれば、輸出向けの投資の減速は必至である。中国の民間消費の割合が小さいことは、雇用者への所得分配が少ないことをうかがわせる。中国にとって米国向け輸出という外需が落ち込んだ時に、高度成長期の日本のように旺盛な国内消費需要がこれに取って代り、高成長が続くというデカップリングが実現するというわけにはいかない恐れが大きいのではないか。
北京オリンピックが終わった後も、震災の復興需要など政府投資が高い水準を続ける可能性が高いが、民間の投資はそれに見合う需要がなければ長続きしない。米国経済の減速が中国から米国向けの輸出の鈍化という形で現れれば、輸出向けの投資の減速は必至である。中国の民間消費の割合が小さいことは、雇用者への所得分配が少ないことをうかがわせる。中国にとって米国向け輸出という外需が落ち込んだ時に、高度成長期の日本のように旺盛な国内消費需要がこれに取って代り、高成長が続くというデカップリングが実現するというわけにはいかない恐れが大きいのではないか。
(2008年06月16日「エコノミストの眼」)
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
櫨(はじ) 浩一のレポート
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