コラム
2008年04月07日

分譲マンション事業における長期戦略の必要性

竹内 一雅

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マンション分譲市場の低迷が続いている。建築確認の遅れに伴う着工戸数の減少、地価と建築コストの上昇による住宅価格の上昇、販売戸数の減少、契約率の低迷、景気の後退懸念、金融機関による融資先の選別・・。さまざまな問題が同時に発生し、マンション市況の先行きを一層、深刻にさせている。

2007年のマンション販売戸数は、06年に比べて東京23区では30%減という大幅な減少となった。これほどの販売戸数の減少にもかかわらず、契約率も低下し、首都圏では好調の目安である70%を大きく割り込み、08年1月には52%まで下落した。また、郊外の売れ行き不振地域では、在庫処分のための値引き合戦が活発となり、不動産業者やマンション分譲業者の倒産などもみられる。

首都圏を中心とするマンション販売の低迷は、販売価格の急上昇が最大の原因だと言われている。東京23区のマンションのm2あたり販売単価は、2006年の72万円から、07年には86万円へと20%上昇した。個人所得が横ばいで推移する中で、2割もの価格上昇が需要を急激に縮小させたようだ。

そこで、今後、在庫処分に伴う値引き販売が、マンション購入を増加させるのではないかと期待されている。確かに、価格が安くなれば、高すぎて購入できなかった潜在購入者を顕在化させることになるかもしれない。

マンション購入の8割は一次取得層と考えられ、そのうちの6割が30~44歳で占められている。国立社会保障・人口問題研究所が発表した世帯数の将来予測によると、最近のマンション需要を牽引してきた団塊ジュニア世代を含む30~44歳の核家族世帯数は、2007年をピークにすでに減少局面に入っている。

しかも、昨年までのマンションブームは、団塊ジュニア世代のマンション購入意欲をあおり、近年のトレンドに比べて住宅取得年齢を早めていた。つまり、団塊ジュニア世代の将来の取得需要を先食いしていた可能性もある。

個人所得の伸びが期待でき、マンションの価格が適切な水準まで進めば、マンション販売は再び拡大に転じるだろう。しかし、明らかなのは、これまでの成功体験に基づくマンション開発・販売が、一次取得層の減少により、中期的には行き詰っていかざるをえないことである。

これからは、景気の回復や値引きによる一時的な販売戸数の増加を期待するのではなく、30~44歳の一次取得層の減少を直視した長期戦略が必要になるだろう。今回の販売急減は、団塊ジュニア層など一次取得層への大量マンション販売時代の終わりの始まりとして認識すべきかもしれない。

最後に、クイズをひとつ。「201万、150万、119万。これが何の数字か、お分かりになるだろうか。」

答えは、「それぞれ、2008年の35歳、25歳、15歳の人口である。」マンションの一次取得層は、今後これほどの勢いで減少することが見込まれるのである。
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