2008年03月17日

J-REITにおける公募増資の現状と課題 -求められるエクイティ・ファイナンスの要件緩和-

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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■見出し

1. はじめに
2. 増資とDPSの関係
3. J-REITにおける公募増資の現状
4. J-REITにおける公募増資の課題 ~求められるエクイティ・ファイナンスの要件緩和~

■introduction

市場創設から7年目を迎えたJ-REIT(不動産投資信託)市場では、用途タイプがオフィスから商業施設・賃貸住宅・ホテルなどへ広がり、運用不動産が7兆円を超えた。しかし、市場時価総額は、米国サブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)問題を契機とした投資家のリスク回避度の高まりとリスク性資産圧縮の動きなどから投資口価格が急落1した結果、2008年1月末時点で4.3兆円に減少している。(図表-1、2)
市場時価総額の増加要因を、(1)新規上場、(2)既存銘柄の投資口発行(以下、増資という)、(3)投資口価格の上昇の3つに大別して、この1年間の動きを振り返ると、2007年の「(1)新規上場」は2銘柄にとどまったため金額はほぼ横ばいに、2007年6月末には2.4兆円あった「(3)投資口価格の上昇」は、昨年後半からの市場下落を受けて0.5兆円に大きく縮小した。一方、「(2)増資」はこれまで通りの発行金額を維持し、J-REIT市場の成長を下支えしている。 J-RE資口を発行する第三者割当増資があるが、これまでのところ公募増資が主流で、昨年の公募増資は約4,000億円と、J-REIT市場規模から見て非常に大きな金額となっている2(図表-3)。
J-REITは、通常、利益の全額を投資主に還元し内部留保しないため、物件取得資金を借り入れ(投資法人債を含む)で調達する。その後、負債比率(以下、LTV(Loan to Value))が上昇し予め定めて開示している財務方針を上回ってLTVの上限に近づくと、増資によりLTVを引き下げる。このため、物件取得による外部成長を通じてポートフォリオの収益拡大とリスク分散を図るJ-REITにとって、増資は不可欠で宿命的なものと言える。
しかし、最近の市場低迷は、公募増資にも影響を及ぼし始めている。すなわち、物件の追加取得でLTVが財務方針に定めた上限に近づいても、投資口価格の下落により、公募増資が困難な状態に陥る銘柄が少なくない。また、市場の下落局面で公募増資を実施した銘柄に対する市場の評価は厳しく、想定していた発行価格を大きく下回るケースも増えている。
そこで、以下では、これまでに行われたJ-REITの公募増資の内容と投資口価格への影響を確認するとともに、J-REITのエクイティ・ファイナンスが抱える課題について検討したい。

(2008年03月17日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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