コラム
2007年06月26日

新しいパラダイムM&A時代の到来

津田 博史

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ここ最近、M&Aに関連した記事が新聞の紙面を賑わせている。5月1日に国際的な企業再編に利用できる「三角合併」制度が解禁され、外国企業が自社株により在日子会社に日本企業を吸収合併させることが可能になったことや、米系投資ファンドのアクティビスト・シェアホルダーが日本において活動を活発化しているなど、記事に事欠かないからである。

アクティビスト・シェアホルダーがどのような日本企業を投資先として選択しているかに興味を持ち、統計的手法を用いて分析してみた。具体的には、日本のアクティビスト・シェアホルダーとして世間を騒がせた村上ファンドが投資した上場企業の財務的な特徴を調べた結果、(1)株主資本に対して負債比率が低い、(2)現金が潤沢で、資本の活用効率が低い、(3)株式市場での評価(PBR)が低く、時価総額が小さい、という企業像が浮かんできた。

そこで、統計的に有意な財務指標を用いて、上場企業約2000社のM&Aリスク量を算出したところ、スティール・パートナーズなど他のアクティビスト・シェアホルダーが投資している企業群も、概ねM&Aリスク量の上位にランキングされていることがわかった。要するに、現金が潤沢で借金が少なく、倒産リスクが小さいにも拘わらず、資本を十分に活用せず、経営効率が悪く、時価総額が小さい企業群をアクティビスト・シェアホルダーが主として投資ターゲットにしているのである。

従って、アクティビスト・シェアホルダーのターゲットから逃れるためには、上場企業は、資本を効率よく活用して収益を増大させ、投資家の評価である株価を高めて、時価総額を大きくする必要がある。

しかしながら、経営努力の結果、時価総額が大きくなり、アクティビスト・シェアホルダーから狙われるリスクが低下しても、企業は安心できない。投資家の評価が高まるということは、内外の巨大企業から見ても魅力的な企業となっているわけであり、マーケットシェアーの拡大や収益源の取り込みのために、M&Aのターゲットにされるリスクは高まる。また、仮に買収防衛策などによりM&Aを防げたとしても、ライバル企業がM&Aによって巨大企業に成長すれば、一気に弱者の地位に陥るケースもありうるのである。

現在、世界市場の一体化の潮流の中で、M&Aにより企業再編が進展し、少数の寡占企業が市場支配力をもつ時代へと向かいつつある。これまでの時代と異なり、新しいパラダイムのM&A時代にあっては、経営戦略の一環としてM&Aをいかに活用するかが企業にとって成長の鍵となる。企業は、M&Aされる恐怖にただ慄くのではなく、自らもM&Aを実行し、M&A後も企業文化や労働条件など様々な面における経営課題を克服し、グローバルな優良企業へと成長していく必要があろう。

司馬遼太郎の「国盗り物語」で、戦国時代の覇者となった織田信長がまだ弱小の頃、圧倒的な兵力差がある今川軍に攻められる前夜の戦略会議で、籠城論を主張する重臣の前で、「古来、城を恃んで戦った者にろくな末路がなく、ほとんどが破れている。・・・(中略)・・・おれの心はすでに出るということに決している、おれと志を一つにする者はおれとともに駈けよ。」と言うくだりがある。要するに、守りの姿勢でいては、勝てずに滅ぶということである。信長が打って出て、桶狭間の戦いで今川軍に勝利したのは、史実である。

昨今、スポーツの世界では、ワールドクラスのプレイヤーとして成功している日本人選手も多い。ビジネスの世界においても、今後の地球規模での企業間競争に果敢に打って出て、生き残れる企業へと導けるワールドクラスの力量を持つ日本人経営者の続出を期待したい。

(2007年06月26日「研究員の眼」)

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