2006年03月25日

建設地方債に対する交付税措置の価格効果 -「定率の特定補助金」がもたらす厚生上の損失-

石川 達哉

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1.
基準財政需要額算定における「事業費補正」と債務償還費の「単位費用」への計上を通じて、地方債の元利償還金に対する交付税措置額の増加が続いている。この措置があるということは、地方交付税制度の中で一定範囲の公共事業に対して「定率の特定補助金」が与えられることと同義であり、地方政府が投資的経費と経常経費をどのように配分するかという選択に重大な影響を及ぼす可能性がある。
2.
各会計年度における元利償還金に対する交付税措置額の大半は、過去に発行された地方債の「理論償還額」に基づくものであり、2004年度における46道府県(不交付団体である東京都以外)の総額は現実の公債費の56.3%にも達している。歳出の決定に影響を与えるのは地方債の新規発行に対して交付税措置される総額であり、新発債の種類に応じた後年度の交付税措置予定額を積算すると、その金額も2001年度以降大幅に増えている。ただし、それは臨時財政対策債を中心とする赤字地方債によるところが大きい。
3.
元利償還金に対する交付税措置が適用される地方債のうち、支出額には依存せずに発行限度額が設定されている赤字地方債の機能は「定額補助金」に近く、歳出の配分に対して所得効果は及ぼすが、価格効果は及ぼさない。これに対して、公共事業の量に連動する建設地方債は価格効果も及ぼす。新規の建設地方債の交付税措置予定額を投資的経費の総額で除すことによって公共事業への実効補助率を計算すると、ピーク時よりは低下したものの、2003年度時点で11.9%を保っている。この補助率を道府県別に見ると、時系列的な変化のパターンは共通しているが、各時点には地域間の水準格差が存在する。
4.
地域住民の直接効用関数としてCES型関数を想定し、これから導出される需要関数に1999~2003年度の46道府県のデータを当てはめることによって、ウエイト・パラメター0.42、代替の弾力性2.2という推定値が得られた。この結果と実効補助率に基づいて厚生損失額を試算すると、5年間累計で1.2兆円と、交付税措置額の11.0%にも達している。交付税措置相当額が「定額補助金」として交付されていれば、この損失額は全く発生しなかったはずのものである。新規事業に対する「事業費補正」の縮減は既に実施されているが、それを推し進め、地方債の元利償還金への交付税措置は早期に取り止めることが望まれる。

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