2004年12月25日

所得再分配効果から見た個人所得課税の推移 -1984~2003年の標準世帯における年間収入階級別データに基づいて-

石川 達哉

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1.
1984~2003年の20年間について、「家計調査」における年間収入階級別の標準世帯データに基づいて計測すると、給与に関するジニ係数は90年代半ば以降上昇しており、課税前所得の世帯間格差は拡大していると言える。また、近年は調査月の直近12カ月分の収入に対応する階級区分と調査時点の収入実績が乖離する頻度が高まり、雇用・所得の不確実性が高まっていることを示唆している。
2.
1984 年以降の所得税制・住民税制の変遷を見ると、人的控除の拡大と税率区分の簡素化による累進構造の緩和の流れが続いている。また、大きな制度改正はほぼ4、5年に1度行われてきた。毎年の所得税制・住民税制・社会保険制度を前述のデータに当てはめることによって税額と社会保険料額を算出し、給与に対する割合を見ると、実効平均税率が趨勢的に低下しているのに対して、実効社会保険料負担率は上昇を続けているため、両者を合わせた広義の実効平均税率はあまり変わってない。税制および社会保険制度による所得格差縮小効果、すなわち、所得再分配効果を、課税後所得(給与から所得税・住民税を控除)や可処分所得(さらに社会保険料を控除)に関するジニ係数が課税前給与に関するジニ係数からどれだけ低下したかによって測ると、趨勢的に所得再分配効果が弱まっていることが確認できる。その傾向は90年代後半以降に顕著である。
3.
課税前後のジニ係数の変化率は、基本的には課税における累進性が高まるほど大きくなる関係があり、累進性と裏表の関係にある限界税率を階層別に計測すると、所得税・住民税に関する狭義の限界税率は1984年以降ほとんどの階層で低下傾向を続けており、所得再分配効果の低下とほぼ整合的な動きになっている。他方、社会保険料負担を含めた広義の限界税率は、平均所得層以上の階層でやや低下するにとどまっている。また、給与水準が高くなることに伴って、広義の限界税率が低くなる階層が存在する。給与が標準報酬の上限と下限の間に位置する限りは、社会保険料は比例税のように働くが、上限を上回る場合と下限を下回る場合には逆進税のように作用するためである。
4.
1999年に「恒久的な減税」が実施された以後は大きな制度改正が行われなかったにもかかわらず、所得再分配効果が低下しているのは、給与水準の全般的な低下によって狭義の限界税率が結果的に下がったことを反映している。同時に、再分配効果の乏しい社会保険料負担のウエイトが大きくなったことも影響している。

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石川 達哉

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