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- 資本ストック蓄積および資本収益率と全要素生産性の関係 -資本ストック蓄積に伴う収益率低下と情報化関連資本-
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1.
生産性と競争力の向上という観点から、情報通信分野を中心とした設備資本ストックの役割が政策的に重視され始めている。設備投資を行う企業の立場からは、資金調達コストを上回る資本収益率を実現することが不可欠であり、資本ストック蓄積に伴う収益率の変化や技術進歩・全要素生産性上昇との関係において効果を定量的に把握することが重要になっている。
2.
先進8カ国について70 年以降の製造業のデータを集計して分析すると、「資本産出比率(生産量に対する純資本ストックの水準)が大きくなるほど、資本収益率が低下する」という関係が観察される。つまり、資本ストック蓄積に伴ってその収益率が低下するのが基本的な構造であると考えられる。
3.
日米の非金融法人企業部門についても、同様の関係がみられる。ただし、日本では、時系列的にほぼ一貫して資本産出比率の上昇と資本収益率の低下が続いているのに対して、米国の「60~66年」と「84年~2000年」の期間においては、資本産出比率の低下と資本収益率の上昇という逆方向の動きが起きている。すなわち、米国においては、資本ストック蓄積に伴う収益率の低下を打ち消すような力が働き、資本ストックの増大を上回る生産の増大が生じたものと言える。
4.
資本収益率の変化率は、1人当たり資本ストック、全要素生産性、資本分配率、相対価格(産出価格の資本ストック価格比)の変化率に要因分解することができる。累積効果でみると、日本の場合は、1人当たり資本ストックの増大による資本収益率押し下げ効果が非常に強く働いている。米国の場合は、1人当たり資本ストックの増大による押し下げ効果よりも全要素生産性上昇による押し上げ効果が大きいために、現在の資本収益率は70年代の水準を上回っている。つまり、資本収益率の低下を回避するカギを握っているのは、資本ストックの蓄積と同時に十分な全要素生産性の上昇が起こるかどうか、である。
5.
最も重要なのは全要素生産性の上昇を実現することであり、実際、米国においては90年代後半に多くの産業で全要素生産性上昇率が高まっている。その全要素生産性上昇の源泉について計量分析すると、自産業だけでなく他産業も含めた社会全体の情報化関連資本ストックと密接な関係があることが示唆される。これは経験による学習や知識ストックの社会的浸透、情報化関連資本導入を契機とした組織の変革、効率化に向けた取組みを体現したものと考えられる。こうした部分なしに情報化投資を行っても、生産性と競争力の向上を果たすことはできないであろう。
(2001年09月25日「ニッセイ基礎研所報」)
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