2001年01月25日

個別資産へのリスクの配分とポートフォリオの最適化

室町 幸雄

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本稿では、ポートフォリオ全体のリスクの大きさを表す尺度(リスク尺度と呼ぶ)と、その個別資産への配分に関する最近の研究や議論を概観する。特に、最近提案された配分法のうち有力と思われるものに関しては、具体的な計算方法を紹介し、若干の計算例を示すとともに、その問題点を考察する。

個別資産の評価・管理の基本は、リスク・リターン分析である。多種多様な資産から構成されるポートフォリオを評価・管理する場合においてもそれは同じで、部門別、資産種類別、あるいは個別資産別のリスク・リターン分析が重要な基礎資料の一つとなる。ところで、個別資産ごとの将来価格(収益率)分布が既知であるとき、資産ごとに求めた期待収益率の加重平均をとるとポートフォリオの期待収益率となるが、資産ごとに求めたリスク量(例えば標準偏差、Var、T-VaRなど)を単純に合算しても、ポートフォリオのリスク量とは一致しないことが知られている。資産価格の変動性の相関が1でない限り、ポートフォリオには分散投資効果が働くからである。
ポートフォリオ管理者にとって重要なのは、単純な個別資産のリスク量そのものではない。当該ポートフォリオを既に抱えているという条件の下で算出される、分散投資効果の寄与を考慮した個別資産あたりのリスク量である。分散投資効果が反映されるリスク尺度も、これまでに幾つか提案されてきたが、個別資産のリスク量の総和がポートフォリオ全体のリスク量になることは必ずしも保証されていなかった。一方、ポートフォリオ全体のリスク量に対する個別資産の寄与(本稿ではこれをRC、risk contribution と呼ぶ)を求める方法も、簡便的なものしかなかった。
そのような中で最近、同次関数に関するオイラーの定理を用いてRCを表現する、という考え方が提案された。このオイラーの定理に基づくRCは、ポートフォリオ全体のリスク量をもとに算出されるので、もちろん分散投資効果の寄与を反映したリスク量である。しかも、その総和がポートフォリオ全体のリスク量に一致することは数学的に保証されている。このような理由から、オイラーの定理に基づくRCは、リスク管理者にとって非常に魅力的なリスクと考えられる。しかし、これには実用上幾つかの問題が存在する。そのうち最も重要なものは、計算結果が安定であるとは限らないという点である。
また、本稿では、ポートフォリオのリスク尺度としての望ましい性質についても簡単に触れる。現在、リスク尺度の中ではVaR(Value at Risk)がもてはやされているが、VaRには標準偏差など古典的なリスク尺度とやや異なる性質があり、それが最近では一部の理論家から批判されている。本稿では、それらの批判を紹介し、VaRに代わるリスク尺度として最近注目を集めているT-VaR(Tail-VaR、conditional VaR ともいう)について述べる。さらに、T-VaRを最小化するポートフォリオ(最適ポートフォリオ)を求める計算法も紹介する。

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