- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 家計の貯蓄・消費・資産 >
- 世代別にみた個人の生涯税・社会保険料負担と年金給付 -99年度年金制度改正法案を踏まえて-
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1.
過去50年間の所得税・住民税と社会保険料負担の賃金に対する割合を平均的所得層について比較すると、1957年以降は社会保険料負担が上回り、80年代後半からは両者の差が拡大している。生年別に20歳から59歳の期間の社会保険料負担をみると、後発世代ほど重くなる。
2.
生年別に20歳から59歳の期間の税負担をみると、20歳台前半と50歳台での実効税率が高い1930年生まれ、20歳台前半の実効税率が低い35年・40年・45年生まれ、両者の中間に位置する50年生まれ以降の世代に3分される。しかし、ライフステージごとの実効税率の世代間格差は実効社会保険料負担率の格差と比べると比較的小さい。給付も含めて考えると公的年金の影響度は極めて大きく、生年による差を無視することができない
3.
7月に国会提出された「年金制度改正法案」と同じ仮定を用いて、片稼ぎ世帯の公的年金に関わる生涯負担と生涯給付の割引現在価値を生年別に計算すると、負担を上回る給付が得られるのは1955年生まれ以前の世代となる。95年生まれの給付は負担の6割にも満たない。現行制度では65年生まれ以前の世代で負担を上回る給付が期待できる。先発世代ほど負担に対する給付の割合は高くなるが、その事実だけをもって世代間の不公平を論ずるのは適当でない。先発世代はもともとの生涯賃金が低いからである。
4.
そこで、「賃金-本人負担+給付」でみた手取り所得の割引現在価値について世代間比較を行うと、45年生まれが最も高い水準となる。手取り所得の水準で見るとすでに受給している世代と現役世代との世代間格差よりも、将来受給する現役世代内部での格差の問題が浮きぼりになる。
5.
公的年金制度は一部の世代の世代内所得格差を拡大するという矛盾もはらんでいる。改正案でも55年生まれ以前の世代では、同一世代において賃金格差よりも年金給付後の手取り所得格差の方が大きくなる。現行制度では65年生まれ以前の世代で世代内格差が拡大する。
6.
以上のとおり、世代間格差・世代内格差の点で年金制度改正案には改善すべき点が残っている。生年別の個人の視点からも情報開示を行い、負担と給付のあり方について開かれた議論を尽くすことが必要である。世代間格差を縮小するために年金目的消費税を導入することで将来料率の引き上げを抑制したり、世代内格差拡大を防ぐために給付における定額部分と報酬比例部分のバランスを見直すこと、なども検討に値しよう。
(1999年09月25日「ニッセイ基礎研所報」)
このレポートの関連カテゴリ
石川 達哉
石川 達哉のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2018/12/28 | 同床異夢の臨時財政対策債-償還費を本当に負担するのは国か、地方か? | 石川 達哉 | 研究員の眼 |
2018/07/13 | 「地方財源不足額」は本当に解消されているのか?―先送りされ続ける臨時財政対策債の償還財源確保 | 石川 達哉 | 基礎研レポート |
2017/08/31 | 再び問われる交付税特会の行方-地方財政の健全性は高まったのか? | 石川 達哉 | 基礎研レポート |
2017/07/03 | 増大する地方公共団体の基金残高 その2-実は拡大している積立不足!? | 石川 達哉 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年03月25日
ますます拡大する日本の死亡保障不足-「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査<速報版>」より- -
2025年03月25日
米国で広がる“出社義務化”の動きと日本企業の針路~人的資本経営の視点から~ -
2025年03月25日
産業クラスターを通じた脱炭素化-クラスターは温室効果ガス排出削減の潜在力を有している -
2025年03月25日
「大阪オフィス市場」の現況と見通し(2025年) -
2025年03月25日
ヘルスケアサービスのエビデンスに基づく「指針」公表
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【世代別にみた個人の生涯税・社会保険料負担と年金給付 -99年度年金制度改正法案を踏まえて-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
世代別にみた個人の生涯税・社会保険料負担と年金給付 -99年度年金制度改正法案を踏まえて-のレポート Topへ