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- 60歳台前半層の就業問題 -高齢化に対応する雇用システムの課題-
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1.
急速な高齢化が進行しており、今後、健康で就業意欲がある高齢者層の活力を生かすことのできる社会への移行が求められている。特に1994年の厚生年金保険法改正は、高齢期の就業のあり方に大きなインパクトを与えることとなった。将来的に60~64歳層の年金が報酬比例部分相当の部分年金となり、本格的な年金の支給開始年齢が65歳に引き上げられることとなっている。このため、現在一般化している60歳の定年年齢と65歳の年金支給開始年齢との間の「制度的空白」への対応が必要となり、高齢期の就業をどのように方向付けるかということが、重要な政策課題となってきている。
2.
わが国の高齢者の労働力率は、他の先進諸国に比べて高水準を維持しており、高齢者の労働参加率が高い点に特徴がある。高齢期の就業の推移をみると、労働力率は安定してきており、同時に雇用労働力化の動きが確認できる。ただし、高齢者の就業分野は、60歳をはさんで大きく変動し、定年制の存在が、高齢期の就業に大きな影響を及ぼしている。
3.
高齢者の労働力需給バランスは供給が需要を大きく上回り、とりわけ定年直後の60~64歳層で労働力需給のアンバランスが顕著である。こうした高齢者の就業のあり方に大きな決定力をもつとみられる定年制については、すでに実態として60歳定年制が一般化しており、また、98年4月からは60歳定年制が義務化され、60歳までの安定雇用について一定の法的枠組みができあがっている。60歳以降については、勤務延長制度、再雇用制度等の継続雇用制度の導入促進政策が進められているが、大企業を中心に制度の導入の足取りは遅く、また、制度の内容をみても、制度適用者を企業が選別するケースが多い。働く意思と能力のある高齢者の継続雇用という制度本来の趣旨に沿った制度運営が行われている企業はむしろ少数である。そして、こうした制度導入の障害としては、年功的なポスト昇進、賃金制度等、制度面の問題が大きいことが指摘できる。
4.
ニッセイ基礎研究所「暮らしと生活設計に関する調査」によれば、高齢期の就業率は60歳で大きく落ち込み、特に雇用者での減少が大きい。また、60歳を境に、就業形態、勤務形態が多様になる。さらに雇用者の場合、60歳以降は収入の低下も大きく、自営業では加齢による収入低下がほとんど見られないのと対照的である。
5.
同調査で60歳台前半層の就業実態を分析すると、高齢期の就業機会として、自営業と並んで中小企業セクターの重要性が指摘できる。それは、高齢期における就業機会の提供という側面にとどまらず、過去の職業キャリアにおいてこうした分野で就業してきた場合の方が、高齢期の就業確率が有意に高くなることが確認された。また、高齢期の収入水準も、むしろ大企業に長期勤務してきた場合の方が高齢期には低くなるという傾向もみられている。もともと定年制がない自営業や、高齢者の雇用に柔軟に対応しうる中小企業が、高齢者に対して相対的に良好な就業機会を提供しているのではないだろうか。なお、無業者の就業希望をみると、4人に1人程度が就業を希望している。
6.
今後の高齢者の増加、そして公的年金制度改正の動き等により、高齢期の経済的基盤の安定のために、就業の場の一層の拡大は不可欠となろう。現在60歳台前半層の就業のあり方として、65歳までの定年延長及び同一企業での継続雇用が有力な方策と考えられている。しかし、定年延長は賃金・人事制度全般にわたる制度再編が避けられず、年功的な賃金カーブやポスト処遇のあり方の見直しが必須である。そして、貢献に応じた処遇制度に転換するのであれば、定年制の存在意義が低下し、一定年齢での強制的な退職システムとしての定年制は形骸化すると考えられる。そうだとすれば、長いスパンにおいては、むしろ定年制を前提としない雇用システムへの転換に政策の目標を置くべきであろう。わが国の高齢者の高い就労意欲は高齢社会において大切な資源であり、この意欲を減ずることなく社会で生かすシステムが求められている。
(1998年09月25日「ニッセイ基礎研所報」)
武石 恵美子
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