1998年06月25日

「税制の国際化」

細見 卓

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経済活動のあらゆる分野に世界基準 (グローバルスタンダード)・国際規格といった考え方がますます浸透し、 国境による国際経済への障壁を排除する方向に世界は向かっている。 財政、 特に税制のように経済の実質に大きく影響するものについても、 国際的に平準化の動きがあり、 最終的には究極の世界統一税制を確立するといった考え方もあらわれよう。 近く発足する欧州連合においても税制や財政、 特に財政赤字の規模について全域的な統一をはかることは既に政治的決定をみている。 もちろん世界経済が一体化していない現況においては、 税制・財政が国に与える影響はかなり異なったものがあり、 完全な政策の均一化にはなお日時を要しよう。 しかし、 このように税制・財政が経済に与える影響を均等化し、 国境が経済交流の障害にならないようにしようとする動きは既に始っている。


構造的改革が必要な日本の税制
我国においては、 景気刺激との関係において税制改革の論議が盛んである。 しかし、 それは主として所得税や法人税の負担軽減についてであり、 我々の税体系をいかに構成することが世界経済の中での日本経済のあり方として最も適当なものであるかという観点がほとんど欠けているものと見える。
戦後経済の再建のために、 国民は重い税負担を要請されてきた。 また、 日本社会全体に平等主義的思潮が主流をなしていたため、 所得税は累次引き上げにより急激な累進構造を残したままである。 一方課税最低限については先進工業国のそれを上回る高い水準にある。 法人税の税率は世界の最高水準である。 そのために各種の租税特別措置法による部分的な課税緩和が行なわれてきた。
高税率の法人税制も、 経済の競争のためには有害とされる。 より低い課税を求めて自国法人の海外流出を招くのはもちろん、 海外資本の対日参入を阻害し、 ために有能な人材や技術導入に不可欠な海外企業の対日進出は進んでいない。 多国籍化した企業の場合はその付加価値をどの場所 (企画・製造・販売所等) に帰属させるかにも微妙な問題が多いだけでなく、 そもそも法人税負担の究極の負担者は誰かという転嫁の問題も未だ結論をみていない。 資本や株主の国際化に伴い、 不完全な妥協に終わっている法人・個人の二重課税調整の方式 (利子配当の源泉課税) についても国際的に統一の扱いにするのが望ましい。日本の法人税論議に欠けている視点である。 今や納税者 (企業者) が国を選択する時代を迎えようとしている。 社会経済に対して特異の負担を求め、 国境が異なった制度の存続を可能にしてきた時代は終わろうとしている。


究極の税制と日本の税制
英米の識者の間で論議されている究極の税制というべきものとして伝えられるのは、 所得税・法人税・付加価値税を3本を柱としている。 それは所得税は重要な税として主な所得者を全てカバーした緩やかな累進制のものとし、 法人税制についても中程度の税率とし課税範囲はなるべく広くする。 また、 税率を高くすればタックスヘイブン等への逃避の問題が生じ、 徴税費の高騰や税法の複雑化を招くので避けるべき、 としている。 第三の柱たる付加価値税を最も重視し、 税収の安定と徴税制度の安全を期している。 いわゆるインボイス制の適用である。
一方、 日本では売上税導入の混乱に見られる如く、 「間接税、 即、 逆進税制」 として、 「大衆課説反対」 に一色化されやすい。 今日の政府支出は国・地方合わせてみても、 教育・保健・医療・社会保障・年金等対象が全国民化している支出が大半を占めている。 従って、 負担の公平の観点からも広いベースでの課税は不可避である。
英国労働党の指導者・財政学者であったカルドア博士 (Kaldor) の勧めた労働党のための税制は支出税一本であった。 そのことすら忘れられている日本の論議は残念である。 貯蓄を除いた国民の諸支出が政府の大半の施策を要請しているという根本に目を届かすべきである。
世界の将来の税制に対して我国が後れているのは、 個人所得税については脱漏所得発生を防ぐ納税者番号制の導入がないことであり、 売上税についてはインボイス制の導入がないことである。 世界の新しい経済の流れは透明性であり、 アカウンタビリティ (説明責任) の徹底といわれるが、 このままでは日本だけがルールに後れをとった国として非難されるおそれさえある。

(1998年06月25日「基礎研マンスリー」)

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