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12月に開かれる京都会議を巡って、 地球温暖化・CO2ガス抑制の論議が盛んである。 しかしながら、 環境悪化の最大の要因ともいえる人口増大の抑制や、 熱帯原始林の消失等の人口増にともなう環境破壊についての危機感が薄いようである。
下火となった人口問題論議
人口増大にともなう地球破壊問題は、 かつて日本の福田元総理・西ドイツのシュミット元首相・フランスのジスカールデスタン元大統領等を主要メンバーとする、 いわゆるOBサミット (現役から退いているが、 世界の世論形成に大きな影響力をもつ、 もと国家元首達) の最大のテーマであり、 「幾何級数的に増大する人口をいかに抑制するか」 が、 世界的な関心のまとであった。
ところが、 福田元総理の死去にともない、OBサミットの活動も活発さを欠くこととなり、 この人口増が引き起こす生活破壊と地球汚染についての論議が下火になってしまったのは残念なことである。 速いスピードで20億人から50億人、 更には60億人にも達しようとしており、 こうした恐るべき人口増大に対処しなければ、 環境破壊やエネルギー・食糧・水不足等の障害が予想されるということは、 かつてローマ・クラブ提唱にも強く取り上げられた大問題である。
このことはまだ記憶に新しいにもかかわらず、 人口問題が目先の難民問題やエスニックの争いといったものにすりかえられ、 「人口増による破壊からいかに地球を守るか」 という根本問題が真剣に取り上げられていないことは、 将来にとって由々しき問題である。
それどころか逆に、 人口増の大きい中国では国内の緊張から少子政策が放棄されようとしており、 また中国に並ぶ巨大人口国のインドやエジプト、 インドネシアといった国では、 人口増大傾向はますます顕著である。 いまだ無制限な人口増を抑制し、 それに伴う諸困難を回避する動きが世界的なものとはなっていない。
環境問題論議に不可欠な人口問題の観点
数年前、 世界女性大会が開かれたが、 産児抑制にからむ問題については意見の一致を見ることができなかった。 またある新聞で、 サンガ-夫人(注) が、 その活動をおこなっていく上でいかに多くの迫害を受けたか、 という特集記事があったことは記憶に新しい。 このように産児抑制にかかわる問題は、 複雑であるが深刻な問題である。
かつての富国強兵的発想からの、 「産めよ、 増やせよ」 的政策は論外としても、 人口の増大と環境保全・生活安定とをいかに両立させるか、 ということは大変難しい問題である。 しかし、 それは単に農業等一次産業の世界だけの問題ではなく、 高度産業社会においても失業の増大という形で現れてくるものであり、 人口問題の解決が迫られている。
マルサスの 「人口の等比級数的増大に対して、 食糧や資源は等差級数的にしか増加しないであろう」 という予言を巡り、 その制約は克服可能であるという説も、 それながらに説得力を持っている。 しかし、 最近の環境汚染の進行状況を見れば、 このマルサスのいう制約に対しては、 よほど効果的な施策なり技術改善を待たなければ克服はできないものと思われる。
人間は自然を克服しなければ生活水準を切り上げていくことは不可能であるが、 同時に、 無秩序な行き過ぎた自然破壊は、 人類に報復を加えるということもまた事実のようである。
マルサスの予言が正しいかどうかを論ずる前に、 地球人口の無制限な増大に対して充分な抑制の工夫がなされなければなるまい。 さもなければ、 かつて人類が経験したような、 戦争による大量殺戮が地球の摂理を回復させたという悲劇的な運命を繰り返す恐れさえあろう。
環境問題は人口問題であるという強い自覚が切に望まれる。 高齢化問題に劣らぬ深刻な事態が迫っていることから眼を離してはならない。
(注) マーガレット・サンガー (Margaret Sanger1883-1966)産児制限運動家
(1997年11月25日「基礎研マンスリー」)
細見 卓
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