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■目次
1.生活者にとっての社会保障問題
2.生活者は 「具体的な」 情報を求める
3.生活者は 「不満」 や 「苦情」 を訴えたい
4. 生活者はリスクに囲まれている
■introduction
社会保障の改革・リストラ議論が盛んである。とりわけ医療保険の患者負担引き上げ、公的介護保険の創設等を巡っては、国会でも政権枠組とも絡む議論となった。夏からは、次期財政再計算に向けた公的年金についての議論がクローズアップされよう。
新聞でも社会保障問題が取り上げられない日はない。様々な省庁や審議会、財界等の経済団体も、今後の社会保障制度のあり方について積極的な発言を行っている。
これだけ社会保障改革が焦眉の急となった背景には、いうまでもなく国家財政の逼迫がある。現在の制度を続けていけば、国民負担は限界を超え、国家財政は行き詰まり、年金や医療財政も破綻するといわれる。
しかし、財政健全化のためには国民生活を無視してもよいというわけではなく、当然ながら財政再建と国民生活との両立が求められるはずである。片方の視点に偏した議論は危険であろう。
ところが最近の諸議論においては、どちらかというと財政の論理が強調されすぎているようにも思える。少なくとも同じウェイトで「生活者の視点」からの検討・立論が必要ではなかろうか。
従来、福祉は“一部の恵まれない人たち”のための制度という性格が強かった。しかし本格的な高齢社会を迎え、社会保障はすべての国民の生活に密着した不可欠な制度となり、そこではもはや“国の恩恵にすがる”という性格は薄れつつある。社会保障は衣食住と同じように、生活者の死命を制する「商品」あるいは「サービス」という性格を強めており、いいかえれば社会保障問題は、生活者にとってのいわば「消費者問題」となりつつあるのである。
もっとも「消費者問題」とはいっても、日常の消費者取引と社会保障とをただちに同列に論じるのは無理がある。たとえば「西瓜を買って食べる(消費する)」ことと、「生活保護を受けること」とは相当の違いがある。
しかし社会保障の中でもとりわけ年金や医療などの社会保険については、誰もが保険料を拠出し、誰もが給付対象になりうるという意味で、すべての生活者が制度の直接の当事者であるといえる。国民の保険料負担を基本として制度が運営されている以上、その対価として正当な給付を受ける権利があるはずであり、いいかえれば生活者は社会保障という商品あるいはサービスの「消費者としての権利」を有すると考えても、あながち不当ではあるまい。同じ生活者が購入するものである以上、「西瓜」も「社会保障」も納得した“買い物”をしたいのは当然だし、またできるだけそれを実現すべきではないかというわけである。
そこで本稿では、昨今の年金や医療・介護などを中心とする社会保障改革の問題を「消費者問題」とパラレルに位置づけてみることで、いわば生活者の視点から社会保障改革を考えるための手がかりを提示してみたい。
ところでこの「消費者問題」という表現は、もちろん一種の比喩ではあるが、単にスローガンとして挙げたものではない。すなわち「住民はお客様だ」というような理念、あるいは窓口での「親切なサービス」を求めるにとどまるものではない。もちろん役所の窓口は親切な方がよいが、もう少し具体的な意味合いを持つ。
すなわち通常消費者は、金銭を払って何かを購入する以上、その対価として正当な商品やサービスを手にする権利を持つ。そこでは消費者は、買おうとする商品やサービスの中身について、正しく知らされなければならないし(これを欠いたときは詐欺や錯誤による無効・取消原因となる)、また受け取る商品やサービスの中身や品質は、もちろん正当なのもでなければならない。そうでないとき(債務不履行にあたる)には取り替えや代金の返還、場合によっては損害賠償を要求するのも、消費者の権利である。
これら消費者にとっては当然の事柄を、年金や医療、さらには介護のような社会保障領域においてもできるだけ実現すべきではないか、というのが本稿の基本的な発想である。
(1997年06月25日「基礎研マンスリー」)
法政大学 社会学部
長沼 建一郎
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