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- コミュニケーション革新を通じた組織と個人の統合の模索-日米情報ネットワーク調査を中心に-
<要旨>
- 急速な情報ネットワーク化は、リストラや業務革新、さらに顧客志向型経営などと相まって、かつて経験したことのない変化を企業組織とワーカーに迫っている。こうした環境下、最近では情報をベースとした組織改革を行う企業さえ現れはじめている。これらの企業では、日本的雇用システムの見直し作業とともに、これまでの合意形成や意思決定プロセス、情報共有のスタイルに関して、抜本的な改革を行っている。そこで本稿は、本年8月から10月に実施した日米情報ネットワーク調査を中心に、IT(Information Technology : 情報技術)進展による組織と個人の変化、さらに、ネットワーク時代のミドルマネジメントのあり方を考えながら、今後の企業組織と個人の統合のゆくえを模索するものである。
- 組織内の情報インフラの整備にともない、個人の情報ハンドリングカ(情報を取り扱う能力)が問われている。この能力に関して日米を比較すると、アメリカは全項目に亘って日本よりも自己評価が高く、特に情報を「いつ」「誰に」伝えるべきかの判断、ツールやメディアを利用しての情報発信、情報の取捨選択などについて自信を持っており、情報の保有価値を認識した上で、効果的な情報行動を行っている様子がうかがえる。一方、日本は具体的な情報源にアクセスし、必要な情報を取捨選択するなど、情報入手に関わる項目では相対的に自信を持っているが、ツールやメディアを利用しての情報発信や、情報の伝達・非伝達の影響の予想に関しては自己評価が低い。
- IT進展による社会や組織、仕事に対する影響に関しては、日米総じて「良い影響を与える」と肯定的であり、アメリカの方がこの傾向が強い。また、仕事上の変化としては、日米ともに「情報機器操作の優劣による仕事の成果の差の拡大」や「仕事の効率性や生産性の向上」の支持率が高い。組織コミュニケーションについては、特に日本は「情報の保有格差の拡大」、アメリカは「必要な情報共有の度合いの高まり」や「会社全体や社外とのコミュニケーションの活性化」を指摘する。さらに、組織・マネジメントの変化については、日米ともに所属組織の「会社全体の戦略や方針の革新」が第一位を占め、次いでアメリカは「中間管理職の役割変化」、日本は「採用、昇進、昇格、人事考課など人事システムの見直し」 となっている。しかし、総じてアメリカに比べ日本は変化を実感していない。
- IT進展によりミドルマネジメントの情報伝達、仲介・調整機能など、その役割が低下すると同時に、組織はフラット化する、という論調が一般的である。しかし、階層や部課の相対的な減少はあるものの、その全廃は現実的でない。これからのミドルマネジメントは、職制や呼称、役割や機能を変容させながらも、組織内で一層、中核的な役割を担うことが求められている。今回の調査では、日米双方で、情報ネットワーク時代の望ましいミドルマネジメント像として、「従来の方法にとらわれない、新しい方法や提案」「迅速な情報の入手・発信、的確な判断」「社外の人脈・ネットワークの拡大」などの役割・機能の強化の方向性が見出された。これらは既に、ネットワークに親しんだ現役のミドルマネジメント層のインタビューからも裏づけられており、自ら情報ハンドリングカを備え、言動の説得力、的確な判断力、創造性を発揮しながら、チーム全体に仕事の楽しさ、達成感を巻き起こしていく、という姿が浮かび上がった。
- 情報ネットワーク時代の組織と個人を展望すると、これまで日本が得意としてきた平均的集団主義による「協調」ではなく、個人を最重要変数とし、個人の職務規定・プロセスの明確化を起点とした「協働」の発想が求められている。組織と個人の関係は、別々の方向をめざす永遠の離反ではなく、納得感と相互信頼を高めていくしくみの中にあり、それは組織の戦略や組織デザインに規定されるところが大きい。そして、ITは、分散化された個人の集合をゆるやかにまとめるとともに、組織のミッションと個人の満足感を実現させる触媒として、多大な可能性を有している。
(1996年12月01日「調査月報」)
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小豆川 裕子
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