1994年06月01日

新たな道を模索する日本の自動車産業

増田 政紀

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<要旨>

  1. 自動車販売不振が長期化しているが、団塊ジュニアの購買層への参入や80年代後半に膨らんだ買換え需主要の顕在化により90年代半ばにはミニブームが来る可能性は残っている。しかし、中期的にはわが国の自動車市場はモデルチェンジと買換えサイクルの動向に左右される米国型の循環構造を辿ると予想される。
  2. わが国の自動車メーカーは過剰設備を抱える中で、部品の共通化や車型の削減などコスト削減へ向けた取り組みを実施中である。また、各メーカー間の提携は国内外を問わず拡大しており、提携内容も開発から生産、販売までを含む幅広い段階で行われているのが最近の特徴である。
  3. このような完成車メーカー間の相互供給の動きは、部品メーカーにも影響を与えて、わが国自動車産産業の強みとも言われた系列関係にも変化をもたらしつつある。部品メーカーのなかには系列を超えて取引先を拡大している企業が増えているほか、量産効果を強みとしてきた大手部品メーカーでは部品同士を組み合わせたシステム化を図る目的で、大手間の合併が増えることも予想される。自動車製造における部品メーカーの役割が益々高まるなかで、技術カの高いわが国の部品メーカーが、今後世界をリードする可能性もあろう。
  4. また、本格的なモータリゼーションの到来が近いアジア地域で打ち出されている国民車構想は主に日本の軽自動車やリッターカーがベースとなっている。わが国自動車メーカーは先進国市場から途上国市場へ販路を拡大していく必要に迫られているが、途上国市場では韓国やマレーシアなど後発国メーカーによる低価格車の輪出攻勢が予想され、価格面では日本は劣勢を強いられる可能性もある。しかし、一方で世界的に高まっているエネルギー問題や環境問題への対策として超低燃費車や低公害車を義務付けようとする動きが急速に広がることが予想される。その点でわが国メーカーは低燃費のエンジン開発ではかなりのノウハウを蓄積しており、また、途上国では1台の車を長期間乗り続ける傾向が強いことから修理部品の安定供給などの面で日本メーカーに優位性があると思われる。
  5. 一方、先進国では高齢化社会の進行とOEM供給の拡大により自動車メーカーの戦略はこれまでのような車のハードそのものから、安全性、操作性などのソフト戦略に移っていくことが予想される。その結果、センサーなど運転者の状況判断の補助を行うようなソフト開発の重要性が高まり、自動車メーカーとエレクトロニクス企業など他業種との提携も進行しよう。
  6. 今後、わが国の自動車メーカーがこれまでの小型車開発のノウハウを活かし、低燃費草や低公害車製造に積極的に取り組んでいくことは、経営上の選択肢の一つでもあるが、同時に先進国メーカーとしての責任でもあるように思われる。

(1994年06月01日「調査月報」)

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