1993年11月01日

新たな段階を模索するフィットネス産業

高橋 敏信

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<要旨>

  1. フィットネスクラブはエアロビクスによる全身持久力の向上を目的としたスタジオ中心の施設であり、もともと米国で発祥したものである。わが国では80年代に健康志向の高まりや若い女性のエアロビクスブームを背景に急成長し、現在ではスタジオだけでなく、トレーニングジムやプールなどを併設した複合スポーツ施設に発展している。業界の売上高は92年に2,600億円に達し、会員数は200万人を超えるに至っているが、ここ数年は業績の伸び悩みが鮮明になっている。これは不況による会員数の伸び悩みに加え、バブル期のブームに乗った過剰投資や地域的な競合激化によると考えられる。
  2. 最近の需要は年齢層の広がりが見られるものの、やはり30歳代前半までの会員が大半を占めている。中高年層はブームに影響されにくく、退会率も低いと言われ、会費収入を安定させるためにも中高年対策は業界の課題となっている。このため、最近では大手を中心に「メデイカルチェック機能」の導入や中高年向け運動療法プログラムの提供を行う動きが活発である。このような予防医療サービスは、高齢者増による施設管理面でのリスクや医師との提携によるコスト増のマイナス面があるが、需要底上げを目指すフィットネス業界の新しい方向性として注目される。
  3. 現在、わが国のフィットネス参加率(利用者数/対象人口)は2%程度と言われているが、この水準は米国の10%と比べれば小さく、成長余地は大きいと考えられる。わが国と米国のフィッ卜ネスに対する考え方は根本的に異なり、米国並みに10%まで伸びることは無理としても、現在の2倍程度の参加率が達成できれば数千億円の産業に発展する可能性もある。いずれにせよフレックスタイムの普及など持短が進むにつれ、中高年サラワーマン層の需要がさらに拡大すると思われることや、郊外がたクラブの増加によるファミリー需要増加の期待から、もう一段の成長が見込まれよう。
  4. しかし、今後は80年代のような急成長が望めず、経営力により企業間格差はますます大きくなると見られる。特に、最近顕著になっている施設の大型化・複合化傾向は差別化競争のなかでは必然的な方向であり、当面、資金力のある大手企業が有利となり、業界再編も進むと考えられる。ただし、施設拡充はいずれ価格(会費)にはね返ってくることは避けられず、次世代のクラブ形態がすべて大型施設に収斂していくとは考えにくい。利用者のアンケート調査ではサービスよりも価格重視の傾向が見られ、多機能サービスへ動く業界の方向とくい違いを見せている。利用者の価格選好意識は根強く、基本的な施設をリーズナブルな会費で提供する中規模施設も一定の需要を獲得すると予想されるため、今後は大型・高料金施設と中規模・低料金施設の棲み分けが進んで行くと思われる。

(1993年11月01日「調査月報」)

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