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- 我が国の「内部労働市場」と労働時間短縮問題 -労働者の「タイムマネジメント」の復権化を考える-
<要旨>
- 労働時間短縮が、政策課題としても経営課題としても急浮上してきているが、今後、一層の労働時間短縮が進むかどうかの鍵を握るのが、労働者の労働時間に対する考え方、労働者と企業との関わり方の行方であろう。
- 我が国の労働時間は、1988年以降、高度経済成長期並のテンポで短縮してきた。しかし、この間、「所定外労働時間」、「年次有給休暇の取得率」は、改善幅が小さかった。また、先進諸国と比較しても、この2指標は、内外格差の要因となっている。このような、労働者に自由裁量を与えられている選択的な労働時間にかかる指標において、改善が進まない、欧米等との差が大きいといった点に、我が国の長い労働時間を成立させている構造的な問題をみることができる。
- このような構造は、1つには我が国の労働市場を特徴づける「内部労働市場」の中から生まれてきたといえる。特に我が国の「内部労働市場」は、職務概念の曖昧さ、要員管理の不徹底、共同集団的な性格をもつ企業組織、能力を幅広く捉える日本的能力主義、インセンティブとしての内部昇進制といった特徴があり、これが、多数の労働者を長時間労働に駆り立てていった背景にあると考えられる。
- 産業別にデータをみると、労働者の同質性が高く、内部昇進への競争圧力が高いとみられる金融・保険業において、以上に述べたような「内部労働市場」に起因する我が国の長時間労働の構造的特徴が典型的に現れている。
- 「内部労働市場」に特徴づけられる我が国の経営方式にはメリッ卜も多く、労働者もそのメリッ卜を享受するために、自分のもつ時間資源を無限定的に企業に提供してきたと考えられる。しかしその結果、労働者自身の時間資源をどう使うかという「タイムマネジメント」が、著しく弱化してしまった。労働時間短縮は、労働者にとっても、様々な条件のトレードオフで進まざるをえないが、重要なのは、どのような条件を選択するかという決定権を労働者の手に復権させることであろう。
- 今後は、労働者が生活の中で重要なものを自分の価値観で選択するために企業組織と交渉できる程度にまでは、労働者を「内部労働市場」にとどめる圧力を低下させる必要があろう。例えば、管理職コースのみが労働者にとってのインセンティブということではなく、企業横断的な専門能力をもつスペシャリストの育成もより重視していく必要があろう。また、1つの企業に定着することをサポートするような様々な社会システムについても再構築が必要なときにきているのではないか。労働時間管理は、総量としての労働時間管理に注力すると同時に、労働者自身が自分の時間資源をどう配分していくかを主体的に選択できるような環境を整備するという視点が、今後は重要になっていくと考える。
(1993年06月01日「調査月報」)
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