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先進国首脳会議の議題は、その時々の世界の政治経済情勢を反映してその時点で最も問題となっているものを取り上げるのが慣例であった。従って、石油危機に如何に対処するかが1980年代当初の最大のテーマであり、その後はインフレなき経済成長が先進国の主要な関心事であった。その間フォークランド紛争のようなものがあって、必ずしも西側の間で、意見の一致をみない政治外交問題が議論されるようになり、段々とサミットの議題が、経済問題から世界の政治、安全保障問題へと重点を移してきたことが近年のサミットからみてとれる。
今回のヒューストンサミットにおいても、その趨勢は続いているが、米ソ両極対立の解消を目前として従来のサミットの性格を一変したと言えよう。一つには、従来のサミットは西側だけの政治経済の安定を図るものであって、東側との対立を前提とするものであったが、今回は東側を如何に西側に招き入れるか、そのために西側の支援、協調をどうするのか、更に端的に言えば、ペレストロイカを進めるソ連のゴルバチョフ政権の成功不成功にかかわらず、如何にソ連と付き合っていくか、そしてソ連の民主化を助けていくかが最大の関心事であった点である。二番目には、米ソの対立がソ連の一方的な破綻によって解消したわけでなく、米国の力の衰えも明らかになってその覇権にも大きなひびが入ってきたことを示したことである。従来は米国を主役として英仏が脇役のサミットであったが、新しく統一ドイツとして生まれ変わろうとしているドイツと経済力、特にその資金力で世界への貢献が期待される日本とが様変わりの発言力と影響力を持ち始めたことを示すサミットであった。この二つはサミットの性格をも変えた画期的な点であろう。
勿論、経済問題を中心に討議するというサミットの沿革からして、経済問題が議論されなかったわけではない。西側経済が概ね順調に推移しているのに対して、東側の貧困と疲弊が明らかになった故に、如何に東側を世界経済の拡大と発展に組み込んでいくかが議論されたが、同時に現在経済的困難に遭遇しているのは東側のみではなく、所謂南側諸国、更に累積債務に苦しむ中南米諸国もあるというととで、それらについて多くの議論がなされた。西側経済はうまくいっているとはいえ、かっての米国のように経済的超大国が存在しないわけで、一刀両断的な措置は生まれることなく先進諸国が熱心に討議したままで終わった。その中にあっては、ドイツのソ連への援助、日本の中国への援助の姿勢が突出していることを示すこととなり、このことは先程述べた両国の発言権の強まりを象徴的に表している。
このように日本はドイツと並んで、発言権を高めたのは同慶の至りだが、発言力を持つということは、世界の人々に納得される合理的な態度をとらないと、目先の利益追求のみ考えていると受け取られ逆に世界の反発を受けるわけであり、その意味では発言力の増大は責任の増大であり、世界の大国として国際協調の中に組み込まれるようにとなったということを見誤ってはならないと思われる。
更に、今回のサミットにおいては、GATTの強化、環境悪化への対応等の火急の問題も討議されたが、抜本的な取組みへの飛躍が決断されたとは言えなかったのは残念である。その点では今後に課題を残したサミットと言えよう。
(1990年09月01日「調査月報」)
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