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衆議院選挙の結果は、自民党の280を越える予想外の勝利となり、第二次海部内閣が組閣されたわけで、表面を見る限り日本はリクルートスキャンダルの政治的混乱を抜け出て安定した状況に入ったようにみえるが、実際は安定しでもおらず、改善もしていないように思える。その理由は以下の2点である。
今回の選挙戦では、日本の直面している日米構造協議、土地問題等の色々な課題についての解決方策は、全くといっていいほど論点として取り上げられず、また革新を含め政治家も国民の意識転換を図ることをせず、問題解決を先送りしたと思える。その点からみると、日本の革新政党というのは、革新の名とは逆で最も変化を嫌う政党と言ってもいいのではなかろうか。このように、何にも手をつけず現状のまま先に延ばしたということは、解決の際の障害、摩擦を益々大きくしたのであり、内在する危険度は増したのではなかろうか。
自民党の勝利といっても、それは保守政治の勝利とはいちがいに言えないのではなかろうか。戦後の日本の社会経済システムは、上記の問題の発生やその後の成り行きをみてもわかるように機能不全に瀕しているのであって、革新政党がその論点を整理し現状の変革を訴えたならば、過半数を得る可能性はあったと思える。所謂野党は、そのような状況にもかかわらず、変革のための明確な論理を提供できず、かつ候補者の数自体も過半数を狙うような擁立ができなかった。このような状況は、政党政治の在り方を含めて、日本の政治の陳腐化、機能低下を意味しており、結果として何年か前の自社対立、この時代は政治的成果の小さな時代であったが、に戻ってしまったようにみえる。そのような点からみると政治的な安定とはとても言えない状態であろう。
従って、総選挙が終わって新内閣ができたとはいえ、政治の混迷を招いた諸問題への解決策も出て来ず、新しい政治勢力も生まれず、単に政治未経験の新議員が増えたということであり、今後の日本の政治の舵取りがうまくいくのか心配である。例えば、特別国会冒頭の補正予算審議や引き続きの来年度予算審議については、消費税の取扱をめぐって従来と同じような党利党略を優先した政治的な葛藤が予想され、海部内閣の政治力、習熟度が試されるわけだが、予断を許さない状況になるであろう。
年初来の円安、株安等の金融相場の揺れは、ある意味で従来の日本の経済金融政策の過去の咎が責められているのであって、地価や株価を平静化させる具体策がなかったことを反映していると思われる。それ以外にも、4月の選挙制度審議会答申への対応や年末のウルグアイラウンドでの米問題の処理等国内の大きな問題に対する政策がはっきりしておらず、日本国民はどのような決着になるのかわからず、戸惑っている状況であろう。
対外政策の面では、日米構造協議の中間報告の大詰めに入っており、内外価格差、流通構造問題、独禁法運用等が俎上に上がっているが、これらの課題は日本としても改善に取り組むべきものであるが、決着如何では反米ナショナリズムの火の手が上がると予想され古い制度の改革もできず、かつ日米関係も悪化するということになれば日本国民にとっては二重の不幸と言えよう。また、日本国民にとっても望ましいこれらの政策がとれないことになるとすると、そのような日本の政治、経済体制自体が世界的に理解を超えるものとして所謂最近の日本特殊論の新たな根拠として取り上げられる危険性も高い。
結論的に言うと、既に日本の問題点はよくわかっているのであり、今問われているのはそれらを是正していこうとする強い政治的意思であるが、新内閣がスター卜する現時点でそのような前向きの姿勢が感じられないのは、日本の国民にとって残念なことである。このような事態を改めるには、正しい政策はしっかりと進め、政治の浄化に真面目に取り組む政治家を生み出すような政治改革を真剣に行うことではなかろうか。
(1990年04月01日「調査月報」)
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