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- 設備投資ブームの要因分析
■見出し
1.はじめに
2.'80年代の設備投資:概観
3.投資拡大要因をめぐる通説
4.投資理論に基づく検討
5.結び:太平洋経済型投資インセンティブ
■はじめに
1980年代後半の世界経済は、巨額の対外不均衡の存在やインフレへの懸念等をかかえながらも、概ね日米を中心に順調な拡大を示してきた。'90年代に入って、景気減速の翳りはみられるものの、総じて引き続きまずまずの経済環境が継続するものと予想されている。
こうしたなかでとりわけ注目されるのが、民間設備投資の動向である。設備投資は、その基本的な性格からいって、景気拡大期にはGNPの成長を上向る伸びを示し、一方で景気収縮期にはそれを下回る傾向(いわゆる加速度原理の作用)ある。それにもかかわらず、とりわけ近時の経済拡大のなかにあっては、設備投資の拡大が大幅であること、およびそうした傾向が世界的に見られいわゆる世界的な設備投資ブームが出現しているという点で、従来以上にその動向が注目を集めた。
これまで、日本経済の発展の各段階において、民開設備投資は常に重要な役割を果たしてきた。1960年代には、積極的な投資の促進が当時の低資本係数を通じてマクロの供給力を増加させ、長期にわたる高度経済成長を可能にした。このメカニズムは、今日では「下村理論」の名で広く知られている。また1970年代には、エネルギー価格の高騰によってエネルギーから資本への代替(いわゆる省エネ投資)が進み、サプライ・ショックを吸収することが可能になった。1980年代、国際化と円高に対応した日本経済において、設備投資がどのようなメカニズムを果たしたかについても、厳密な分析があってしかるべきである。
本稿では、日米比較に配慮しながら、マクロ経済学的な観点から'80年代の日本の投資メカニズム、とりわけ'80年代半ば以降の投資ブームの要因を分析する。以下では、まず'80年代の設備投資動向をいくつかの観点から概観する。次に、設備投資の拡大要因として通説ではどのような解釈が与えられているか、日本の『経済白書』およびアメリカの『大統領経済報告』等に基づき、サーベイする。最後に、経済学における新古典派投資埋論にのっとり、「資本のレンタル価格」の観点から、投資インセンティブの要因分析を行なう。資本レンタル価格は、資本財相対価格、割引き率(金利+償却率)、および税制ファクターの三要素からなるが、これまで日本では、他の主要国と異なり資本財相対価格の低下が重要な投資インセンティブを提供してきた。筆者はかつてこれを「日本型投資インセンティブ」と呼んだことがあるが、'80年代に入って、こうした日本型インセンティブが他地域、とりわけ太平洋経済圏に広がり、いわば「太平洋型投資インセンティブ」が出現していることを明らかにしたい。最後に、分析に基づくいくつかのインプリケーションを議論する。
(1990年03月01日「調査月報」)
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竹中 平蔵
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