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今年1989年は、言わば21世記にあと10年と迫ったわけで、未だ明確な形をとっていないが、戦後40数年続いてきた世界の秩序が大きく変貌を遂げてゆく兆しが強まっている。
ゴルバチョフ書記長の今後の政治的命運に大きく依存しているが、ソ連は戦後初めて西側世界に対して、開かれた政治経済関係を築こうとし始めている。IMFの全廃、更には、米ソの戦略核兵器の大幅削減交渉が日程にのぼってきており、米ソ首脳の交流も今や当然視されるようになってきた。IMFの全廃については、欧州の戦乱に際して米国がニューヨーク、ワシントンへの核投下を誘発する恐れるのある核の使用に踏み切るかどうかというドゴール以来の欧州の不安を再び湧き起こしている。また、1992年に予想される欧州統合は、従来の欧州と米国の相対的関係に大きな影響を与えることは必至であろう。このような動きの中で、欧州がどれだけ米国から独立した形になるのかは、今後の展開を待つとしても、欧州のことは欧州で片づけようという気運は強まると思われ、戦後の所謂パックスアメリカーナの体制からかなり離れてゆく可能性を秘めている。
時を同じうして、ソ連による東欧支配にも大きなひびが入りつつある。東欧諸国は、西欧諸国に比して遅れた経済発展を、ソ連に依存していては達成できないかもしれないということから、西側へ大きな関心の眼を向け始めている。東西を併せた欧州統合にまで進むかどうかは予断をゆるさないが、戦後のヤルタ体制と言われるものが大きく変更を迫られていると言えよう。
アジアをみれば、朝鮮半島をめぐる情勢にも大きな動きがみられるし、カンボジアでの戦乱もようやく終了して、遅れた経済の回復に向けての大きな前進も期待できる。
いずれにしても、米ソの圧倒的に強い政治力、それを裏付ける核軍事力というものの絶対的優位が崩れて、世界の様々の国々がその持てる人的、物的資源を活用して世界経済の中における新しい位置付けを求めて、大きく動き出し始める年となるのではなかろうか。
日本にとっては、そのような激変する世界情勢の中で、進路を誤まらないよう自分の眼と耳で判断して方向を定める年がまさに始まろうとしていると言えよう。
(1989年01月01日「調査月報」)
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