NEW
2025年07月16日

サステナビリティ情報開示の法制化の概要

金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 梅内 俊樹

文字サイズ

1――SSBJ基準の法制化について

国内で最初のサステナビリティ開示基準として、以下の3つの基準が2024年3月に公表された。

(1) サステナビリティ開示ユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」
(2) サステナビリティ開示テーマ別基準第1号「一般開示基準」
(3) サステナビリティ開示テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」

グローバル・ベースラインとされるISSB(国際サステナビリティ基準審議会)のIFRSサステナビリティ開示基準(以下、ISSB基準)との整合性を確保することを基本的な方針として、国内でサステナビリティ開示基準の開発を担うSSBJ(サステナビリティ基準委員会)によって開発されたものである。今後は当該サステナビリティ開示基準(以下、SSBJ基準)が金融商品取引法上の開示基準として位置付けられた上で、当該基準に基づく情報開示が有価証券報告書に導入されることになる。

2――ロードマップ(案)の概要

2――ロードマップ(案)の概要

金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」によって示された有価証券報告書へのSSBJ基準適用のロードマップ(案)は、図表1の通りである。まず、i)時価総額3兆円以上のプライム市場上場企業に対して2027年3月期からSSBJ基準に基づくサステナビリティ情報開示を適用し、ii)その翌期(2028/3期)から時価総額1兆円以上、iii)更にその翌期(2029/3期)から時価総額5,000億円以上のプライム市場上場企業に対して適用、という具合に、時価総額の大きい企業から段階的にSSBJ基準を導入することが計画されている。

サステナビリティ情報に対する第三者保証の導入や現行の開示規制に基づく情報との同時開示の義務化についても、時価総額で区分された階層ごとに適用時期が設定されており、第三者保証はSSBJ基準適用の翌期から適用され、更にその翌期からは同時開示が義務付けられることになる。
図表1 SSBJ基準導入のロードマップ(案)
第三者保証については、当初の2年間は保証範囲がScope1・2の温室効果ガス(GHG)排出量に関する情報、ガバナンス、及び、リスク管理に限定される見通しだが、3年目以降は、国際的な動向等を踏まえた上で検討する方針が示されている。

同時開示の義務化までの2年間は経過措置として、情報開示を2回に分ける「二段階開示」が認められるが、二段階目の情報開示は有価証券報告書の訂正報告書を媒体とし、半期報告書の提出期限までに、SSBJ基準に基づく情報開示を一括して行うことが想定されている。
 
国内では2014年に日本版スチュワードシップ・コードが公表され、2020年の改訂で「サステナビリティの考慮」が求められるようになったのを契機に、投資家の中長期的志向やそのもとでのサステナビリティを重視するスタンスが強まっている。サステナビリティ情報開示の法制化は、こうした流れの中でも企業情報開示の拡張であり、国際的な比較可能性を確保した情報開示を求める投資家の存在によるところが大きい。しかしながら、国際的に標準化された開示基準に基づく情報開示であれば、企業にとっても海外の投資家による評価を得られやすくなるほか、国内外における開示実務を効率化できるメリットも見込まれる。このため、SSBJ基準の導入プロセスの策定では、開示情報の有用性や信頼性を海外にもアピールできる「ISSB基準と同等な開示基準が完全に導入された状態」の創出が強く意識されている。

もっとも、プライム市場上場企業であっても、企業規模や海外への事業展開などの違いによって、SSBJ基準に基づく情報開示によって得られる効用や新たな開示実務に対応するための準備期間は異なる。こうした事情も考慮された結果として策定されたのが、時価総額の大きい企業から段階的に導入を図るロードマップ(案)である。

なお、「ISSB基準と同等な開示基準が完全に導入された状態」とは、我が国においては時価総額1兆円以上のプライム市場上場企業にSSBJ基準が適用される状態と解されている。このため、ロードマップ(案)をサステナビリティ情報開示の法制化に向けた基本方針としつつも、「完全に導入された状態」の必要条件となっていない「iii)時価総額5000億円以上1兆円未満のプライム市場上場企業へのSSBJ基準の適用」については、国内外の動向を踏まえて年末までに結論を得る方針が示されている。

また、欧米でサステナビリティ情報開示の制度化が遅滞するなか、当初案で適用が検討されていた時価総額5000億円未満のプライム市場上場企業へのSSBJ基準の適用については、今後数年間かけて、サステナビリティ情報開示を巡る状況を勘案しつつ決定することとされている。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年07月16日「基礎研レター」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任

梅内 俊樹 (うめうち としき)

研究・専門分野
企業年金、年金運用、リスク管理

経歴
  • 【職歴】
     1988年 日本生命保険相互会社入社
     1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
     2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
     2009年 ニッセイ基礎研究所
     2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
     2013年7月より現職
     2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
     2021年 ESG推進室 兼務

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

お知らせ

お知らせ一覧

【サステナビリティ情報開示の法制化の概要】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

サステナビリティ情報開示の法制化の概要のレポート Topへ