コラム
2015年07月13日

都道府県別出生率と「女性活躍」- データ分析が示す都道府県別出生率と働く女性の関係性 -

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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【はじめに】

厚生労働省が2014年の人口動態統計を発表した。
   残念ながらわが国の合計特殊出生率(以下、出生率)は1.42と9年ぶりに0.01ポイント減少に転じている。
   都道府県別にみると、最低は東京の1.15で、最高は沖縄の1.86である。
   出生率が低迷するわが国において、沖縄県はいまだ突出した出生率を誇っている(図表1)。2014年の沖縄県の出生率は昨年よりも低下したとはいえ1.86であった。全体的に見ると沖縄・九州において出生率が高い。
   「都道府県別の出生率の高低差はなぜ生じているのか。」
   この理由について、筆者は取材などで「東京や大阪など大都市では出生率が低い。女性の社会進出で出生率は下がっているのではないか?」という質問を受けることが未だに少なくない。
   そこで本稿では、その回答を統計的に探るべく、都道府県別の出生率と女性活躍の指標の一つとなる「女性労働力率」のデータを用いて両者の相関分析を試みた。

図表1 沖縄県の出生率の推移


【都道府県データで見た女性労働力率と出生率の相関関係】

国立社会保障・人口問題研究所が発表している人口統計資料集2015年と厚生労働省の平成26年度人口動態統計月報年計のデータを利用して、各都道府県の「出生率」と「女性労働力率」の相関(異なるデータ間の関係性の強さ・有無)を分析した結果が図表2である。
   女性活躍推進や少子化対策に政府が力を入れている現在、都道府県別の「働いている、または即戦力として働く見込みのある女性の割合」と「出生率」の関係が果たしてあるのかどうか、同分析で見ることが可能である。
   ちなみに「女性労働力率」とは、15歳以上の女性人口に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合を示す指標である。このうち「完全失業者」とは、仕事がないだけであって仕事さえあればすぐに就業する意思がある者(国の調査期間中に仕事はしていなかったが、求職活動中または求職活動の結果待ちをしており、仕事があればすぐに就職できる者)をさしている。
   各都道府県の女性労働力率(全年齢階層、年齢階層別)と出生率の相関係数は、以下の通りとなった(図表2)。

図表2 各都道府県の女性労働力率と出生率の相関係数


都道府県データによる女性労働力率と出生率の関係を見ると、出生率と女性労働力率(総数)だけでは両者にまったく関係がないように見える。つまり、「女性活躍」と出生率の間には関係性が見られない。
   また、15歳から29歳という日本の第一子平均出産年齢30.4歳(平成25年数値・厚生労働省発表)にとどかない年齢層での、女性労働力率と出生率との間にも相関が見られなかった。
   しかしながら、第一子出産後から子どもが大学院を卒業するくらいまでとみられる30歳から59歳の年齢階層においては、女性労働力率と出生率との間にははっきりと「中程度の正の相関がある」ことが判明した。
   この場合、
   (1)出生率が高いほど子育て期の女性労働力率が高い
   (2)子育て期の女性労働力率が高いほど出生率が高い
のどちらとも推定が可能であるが、いずれにしても第一子出産年齢の平均から考えると「子育て期にあたる年齢の働く女性」が多い都道府県のほうが、出生率が高い、ということがわかる。
   少なくとも「女性が社会進出しているから、出生率が低い」という考え方は統計的には否定されたのである。


【分析結果からの示唆】

子育て期の女性が経済力をもっているエリアほど出生率が高い。共働きで子育ての財力があるので妊娠出産に取り組む、あるいは、子育てと仕事の双方にとりくみたい女性が増えている等、理由は様々であろうが、「女性の社会進出は出生率を低下させていない(むしろ子育て期の女性においては正の相関がある)」日本の現状が垣間見えた。
   女性活躍推進(女性労働力率の上昇)そのものは出生率上昇に向かい風ではない。
   しかしながら、働きながら「早く」産める労働環境を整備する、これが伴わなければ出生率の大きな上昇は望めないことは生物学的に確かである
   晩産化を阻止しつつ女性が活躍できる社会作りを政府・民間一体となって推進すべきであると考えている。




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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2015年07月13日「研究員の眼」)

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