コラム
2015年05月11日

定義しだいで確率は変わる-「確率空間」の定義が曖昧だと、どうなるか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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一般に、確率というと、ある事象が発生する確からしさを0から1までの数値で表すもの、と理解されているものと思われる。確率が示す値は、常に絶対的で揺るがないものと信じられているのではないだろうか。しかし、次に示す「ベルトランのパラドックス」という問題を見ると、確率に対する見方が揺らぐかもしれない。この問題は、幾何と確率の要素を融合した内容となっている。

問題

解答A・B・C

確率は1/3、1/2、1/4と3通りの値となった。どの解答が正しいのだろうか。実は、上記の3つの解答は、いずれも正しい。問題文が曖昧だったために、いくつもの正解が生じる事態となっている。
   確率を考える際には、確率空間の定義が必要となる。数学の分野の1つに、確率論がある。そこでは確率空間を、(1)確率を考える土台となる標本の集合、(2)その集合から構成できる事象の集合、(3)各事象に確率の値を対応させる関数、の3要素で構成する。(数学的な表現の厳密さは、省略している。)
   A~Cの3つの解答では、弦の引き方が異なっている。解答Aでは、円周上に2点をとって弦を引いている。解答Bでは、無作為に選んだ半径上の点を通って半径に垂直な弦を引いている。解答Cでは、円の内部の点が中点となるように弦を引いている。即ち、(1)の標本の集合が、Aでは円周上の2点の集合、Bでは無作為に選んだ半径上の点の集合、Cでは円の内部の点の集合、とそれぞれ異なっている。このことが、確率空間の定義の違いとなり、確率の値が異なるという結果に至っている。

例えば、解答Aの意味で確率を問うためには、問題文を、「この円の円周上に2つの点を無作為に選んで弦を引くときに、弦が正三角形の1辺よりも、長くなる確率はいくらか」とする必要がある。

通常、確率を扱う際に確率空間を意識することは、まずない。しかし、この問題のように、その定義が曖昧なままでは、確率の値が揺らいでしまうこともある。確率の値を見るときには、場合によっては確率空間の定義も気にする必要があると思われるが、いかがだろうか。

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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2015年05月11日「研究員の眼」)

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