コラム
2014年03月18日

黒田緩和1年の評価と聞かれると

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

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4月で黒田異次元緩和が放たれてから1年が経過する。
   黒田総裁就任時からこの1年間(3/17日時点)で為替は約6円安となり、日経平均株価は約2000円上昇、期待インフレ率も上昇するなど金融市場は大きく反応している。
   黒田総裁はこの1年間で2回しか動いていない。歴代日銀総裁が任期中に動いた回数と比べれば少ない。昨年4月の異次元緩和と、2月の貸出支援制度拡充だ。黒田緩和はかなり効率的に結果を出したと言えそうだ。

黒田緩和の評価はどうか?とよく聞かれる。聞かれる度に正直困ってきた1年であった。
   それは短期と長期をどう分けて評価できるのか、自分の中でどう消化していいのか迷いが生じていたからである。
   98年日銀法改正から、日銀は独立だからという印象とは逆に、マーケット(筆者も)では、政治の圧力に押されて追加緩和に追いやられたという印象を強く持っている。
   黒田日銀になり、日銀が積極的・自主的に大規模緩和を実施したという逆の好印象を多くの市場参加者はもっているのではないだろうか。黒田緩和はうまくいったのか?と聞かれれば、「短期的にはうまくやった」と筆者も評価する。

短期的という言葉にこだわるのは、グリーンスパンの政策運営が脳裏に鮮明に焼きついているからだ。当初、グリーンスパンはマエストロや神として市場ではみなされていた。しかし、サブプライムローン問題に端を発した金融危機以降、神という短期的な評価から大きく失墜している。

白川総裁が最後の会見で「私の評価は歴史が判断する」と発言したのは、「将来の評価は現在とは真逆になることもあろう」ということを示唆していたのだと思う。事実、黒田緩和が株高・円安を演出したが、将来的なバブル、財政規律崩壊などの引き金を引くリスクは高まっている。

そういう意味では逃げの評価になってしまうかもしれないが、黒田緩和の評価を大学の講義に例えるなら、前期試験は優秀な得点で合格、ただし後期試験次第によっては、年間の単位をあげられない(前期の単位も剥奪)といったところだろうか。「評価になっていない」と言われればその通りだが、正直な気持ちである。

大学の年間講義をパスするために2つ重要になってくるように思う。
   後期試験と思われる出口に向けての前に、まだ前期過程が終わるか実は微妙だということである。あと4月には消費税の引き上げが実施される。おそらく筆者の予想では、夏までには黒田総裁は追加緩和を実施してくると見ている。
   ここまで「2倍」をキーワードにかなり市場の期待を盛り上げてきた。
   現在、日銀が14年末まで示しているマネタリーベースの残高予想を15年末に延ばし、それに伴い国債、ETFの購入枠を拡大してくるだろうというのが市場コンセンサスになっているが、昨年4月のバズーカがあまりに強力だっただけに、それを超えるインパクトが出せるかどうか。
   それともう一つが、後期試験のパスをより可能とするために、黒田総裁は「出口議論は時期尚早」と発言しているが、やはり出口の議論は今から行うべきだ。特に政府や財務省と将来の損失処理のやり方を決めておくべきだ。そうすればより踏み込んで現在追加緩和が実施できるはずだ。

第三の矢がなかなか放たれず、再び第一の矢である日銀にその期待が高まることは喜ばしいことではない。日銀が動く前に政府の成長戦略をもっと加速させる必要があることは言うまでもない。しかし、政治は経済から外交などの色合いの強いものがメインになりつつある。

残念ながらこのまま日銀が動かずに物価目標を達成し、日本経済も復活するという可能性は小さいと思う。黒田緩和の是非が問われるのは、消費税の壁を越えた4月以降が、本当の正念場になりそうだ。

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総合政策研究部   常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融財政政策、日本経済 

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