コラム
2013年12月10日

女性の消費は日本経済を活性化させる?

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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成長戦略で言われている通り、少子高齢化が進展し人口減少社会が到来する日本では、労働力人口を確保するために「女性の活躍」の促進が不可欠である。日本では、結婚・出産を機に退職する女性が多く、縦軸に就業率、横軸に年齢をとってグラフを描くと、ちょうど30歳前後の就業率がへこんでM字カーブを描くことが長らく課題となっている。現在、政府では、このM字のへこみを解消すべく様々な政策が検討されている。女性の就業率を高めて働く女性が増えること、つまり、自分で収入を得る女性が増えることは、実は手っ取り早く日本経済の活性化につながる可能性がある。

それは女性の方が男性よりも消費意欲が旺盛だからだ。これは別に目新しい視点ではなく、昔から様々な消費場面で言われてきたことだ。例えば、F1層(女性の20~34歳)は独身で自由に使えるお金をたくさん持つ消費意欲が旺盛なセグメントとして、昔から様々なビジネスにターゲットとされてきた。また、夫や子どものいる割合が増えるF2層(女性の35~49歳)などでも、景気が悪くなると夫のこづかいやスーツ代は真っ先に削るけれど、自分の美容・ファッション代は削らない傾向があり、この様子を用いて景気の状況をとらえる「父ちゃんの立場指数」という見方もある

これらは同年代の性差などに注目した見方だが、実は収入に注目しても面白いことが分かる。同じ年収階級の男女の消費性向を比べると、ほぼ全ての階級で男性より女性の方が高くなっている(図)。つまり、同じだけのお金を持っていても、男性より女性の方がたくさんお金を遣うということだ。

消費支出の内訳を比べると、男性より女性の方では「住居」や「被服及び履物」、「その他の消費支出(交際費や諸雑費など)」にかける金額が多く、「食料」や「交通・通信」、「教養娯楽」が少ない傾向がある。また、男女とも年収の増加に伴って、いずれの支出額も増加していくが、特に「教養娯楽」や「被服及び履物」、「その他の消費支出」などの比較的生活必需性の低いものの増加率が高くなっている。「食料」や「住居」などの生活必需性の高い支出も年収とともに増えていくが、生活必需性の低いものと比べると増加率は大きくない。また、男女の増加率を比べると、全体的に男性より女性の方が増加率は高い傾向があり、特に「被服及び履物」や「その他の消費支出」のうち美容関連の支出の増加率が目立つ。

つまり、男女とも年収の増加に伴って生活を各方面からグレードアップさせていくが、その様子は特に旅行や身に着けるもの、交際などのちょっとした贅沢によくあらわれる。また、その傾向は女性の方が強くなっている。

女性は消費意欲が旺盛で、特にファッションや美容に興味関心が高いということは世間でよく言われることだが、データにも確かにあらわれている。

働く女性が増えると収入を持つ女性が増え、女性は消費意欲が旺盛だから消費が活性化する。実際には、景気低迷による夫の収入減や子どもの教育費用を補うために働いているという女性も多いだろうから、こんな単純な話ではないだろう。しかし、働く女性が増えると家事・育児関連サービスをはじめとした働くための消費が生まれ、また、そこに新たな雇用が生まれるという効果もある。

「女性の活躍」が言われるとき、減りゆく労働人口を確保するためにといったマイナスを埋めるような表現がなされることが多い。また、「育休3年」「上場企業で役員に1人は女性の登用」などを見ると、これからの女性は子育ても仕事もしっかり両立しなさい、と強制されるような印象もあり、「女性の活躍」と言われても、つい冷めた目で見てしまう女性も少なくないだろう。

マイナスを埋めるために女性に働くことを促すのではなく、女性の消費は日本経済の押し上げ効果があり新たな雇用も生み出す、女性が働くことは日本社会にとってプラス、だから必要だというような見方をした方が、女性たちの賛同も得やすいのではないだろうか。

日本経済は回復基調にあるが未だ課題は多い。さらに景気に勢いをつけるためにも、働く女性の増加、女性の消費に期待したい。


単身勤労者世帯の性・年収階級別消費性向



 
 1 「「父ちゃんの立場」で景気読む――衣服代を指数化」(日本経済新聞、2013/10/20朝刊10面)。「父ちゃんの立場指数」とは証券アナリスト馬渕治好氏が編み出した指標で、全国百貨店協会の「紳士服等売上高前年比伸び率」から「婦人服等売上高前年比伸び率」を差し引いたもの。不景気下では「父ちゃん」の服代は真っ先に削られる一方、「母ちゃん」はあまり変わらずに服を買い続けるため「父ちゃんの立場指数」は下落するが、景気が回復すると「おゆるし」が出て指数は改善。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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