2017年10月13日

貸出・マネタリー統計(17年9月)~「貯蓄から投資へ」の動きは確認できず

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向: 都銀を中心に2ヵ月連続で大きく鈍化

10月12日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、9月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比2.99%と前月(同3.24%)から低下した(図表1)。伸び率の低下は2ヵ月連続となる。地銀(第2地銀を含む)の伸び率は前年比3.6%(前月も同じ)と安定的に推移しているが、都銀等の伸び率が前年比2.3%(前月は2.8%)と大きく低下したことが響いた(図表2)。主にM&A資金など大口貸出が前年に比べて少なかった影響のようだ。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3)貸出先別貸出金/(図表4) ドル円レートの前年比(月次平均)
次に、為替変動等の影響を調整した実勢である「特殊要因調整後」の銀行貸出伸び率(図表1)1を見ると、直近判明分である8月の伸び率は前年比3.07%と7月(3.22%)から低下している。7月から8月にかけてのドル円レートの円安幅(前年比)は小動きであったため、見た目(特殊要因調整前)の銀行貸出の伸び率低下(7月3.42%→8月3.24%)に沿った動きとなった。昨年後半以降、見た目の伸び率上昇に作用してきた円安による押し上げ効果も一服している。

9月の「特殊要因調整後」伸び率は未判明だが、9月におけるドル円レートの前年比での円安幅は8.5%と8月から横ばいであった(図表4)。円安は外貨建て貸出の円換算額を押し上げることで見た目の伸び率を押し上げるが、8月から9月にかけての円安による押し上げ幅はほぼ変わらなかったことになる。従って、9月の特殊要因調整後の伸び率は、見た目の伸び率の低下幅(0.25%)と同程度低下したと考えられ、前年比2.8%程度になったと推測される。
(図表5)国内銀行の新規貸出金利 なお、8月の新規貸出金利については、短期(一年未満)が0.524%(7月は0.620%)、長期(1年以上)が0.823%(7月は0.832%)とそれぞれ前月から低下した。短期については過去2番目の低水準となっており、3ヵ月移動平均をとったトレンド(図表5)でも低下基調が続いている。長期については、トレンドとしては下げ止まり感が出ているものの、日銀の長短金利操作のもと、今後も市場金利が極めて低位に抑制されるうえ、激しい競争環境も金利の抑制に働くため、明確な上昇は見込めない。
 
 
1 特殊要因調整後の残高は、1カ月遅れで公表されるため、現在判明しているのは8月分まで。

2.マネタリーベース: 増加ペースが再び鈍化へ

10月3日に発表された9月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通するお金)を示すマネタリーベースの前年比伸び率は15.6%と、前月(同16.3%)から低下した。伸び率の低下は2ヵ月ぶり。内訳のうち、日銀当座預金の伸び率が前年比19.3%と前月(20.2%)から低下したことが主な原因である(図表6・7)。
(図表6) マネタリーベース伸び率(平残)/(図表7) 日銀当座預金残高(平残)と伸び率
一方、9月末のマネタリーベース残高は、前月末から5.5兆円増加の475兆円となり、引き続き過去最高を更新した。
(図表8)マネタリーベース残高と前月比の推移 ただし、季節性を除外した季節調整済みの月中平均残高ベースでは、前月比4.8兆円増と前月(同11.5兆円増)から大きくペースダウン。概ね毎月7兆円増の増加ペースが続いていた昨年と比べても、増勢は明らかに鈍化している(図表8)。また、同じく季節性が除外されるマネタリーベース(末残)の前年比増加額を見ても、61.8兆円と2013年10月以来の小幅に留まっている。日銀の国債買入れペースが縮小していることが、マネタリーベース増加ペースの鈍化という形で現れている。

今後についても、引き続き日銀の大量国債買入れによって市中に残存する国債残高が減少に向かうため、日銀の国債買入れペースはさらに縮小に向かうとみられ、マネタリーベースの増加ペースも緩やかに鈍化していくと考えられる。
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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