2017年03月14日

海外資金による国内不動産取得動向(2016年)~アベノミクス開始以前の状況に後退~

増宮 守

文字サイズ

1――国内不動産取引額の減少

不動産取引額は、投資市場の活力を表すものであり、価格サイクルの先行的指標と考えることもできる1。2016年の国内不動産取引額は、4年ぶりに減少した2015年2に続く2年連続の減少となった3(図表-1)。2015年下期に中国経済の失速懸念が高まって以降、日本国内の不動産投資市場でも不透明感が漂う状況が続き、投資市場の活力が低下している。ただし、2016年11月の米国大統領選以降、金融市場で強気な動きが目立っており、今後、不動産投資市場にもポジティブな影響が及ぶかどうか注目される。
図表-1 国内不動産取引額
アベノミクスの開始以降大きく上昇してきた不動産価格は、2016年には高値圏で横ばいあるいは弱含みで推移した(図表-2)。また、不動産投資の期待利回りも、既にリーマンショック前の2007年時点を下回る歴史的な低水準にある(図表-3)。このように不動産価格サイクルのピークが意識される中、積極的に高値で買い付ける動きが控えられた。また、マイナス金利政策下で売却代金の運用手段も乏しい中、積極的な売却姿勢も影を潜め、市場に出る売却物件が不足したことも不動産取引額の減少に繋がったとみられる。

このように、売り手と買い手が共に積極的な取引を控えたにもかかわらず、2016年の国内の不動産取引額の減少は限定的であった。これは、市場を介さないスポンサー企業からの取得が多いJ-REITが2016年も取得額を増加したためであり、年間取得額は過去3番目に高い水準であった(図表-4)。また、機関投資家の新たな投資手段として人気を集めている私募REIT(非上場オープンエンド型不動産投資法人)も、J-REITと同様にスポンサーからの取得によって取得額を増加した(図表-4)。

一方、その他の投資主体による取得額の減少が著しく、J-REIT、私募REITによる増加を相殺して余るペースで減少し、直近のピークであった2014年からほぼ半減した(図表-4)。2012年の水準も下回るなど、アベノミクス開始以前の状況に戻っており、仲介会社の媒介や入札などによる開かれた投資市場の停滞が顕著といえる。
図表-2 国内不動産取引価格/図表-3 不動産投資の期待利回りと10年国債利回り/図表-4 国内不動産取引額(取得主体別)
2016年2月にはマイナス金利政策が導入され、不動産投資市場への新たな余剰資金の流入、および不動産取引額の拡大が期待された。しかし、実際のところ、マイナス金利政策は、相続税の節税を目的とした賃貸アパート建設を増加させたものの、必ずしも広く不動産投資市場を活性化するものではなかった。馴染みのない政策として市場の混乱を招き、資産運用利回りや金融機関の収益力を低下させるとのデメリットも意識された。不動産投資は活発化せず、長期金利が大幅に低下した一方、不動産投資の期待利回りはわずかな低下に止まり、不動産投資リスクプレミアム(期待利回りと長期金利の差、イールドスプレッド)が広がる形となった(図表-3)。
 
 
1 増宮 守 「不動産価格サイクルの先行的指標(2016年)~大半の指標がピークアウトを示唆~」 ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2016年10月13日
2 増宮守「海外資金による国内不動産取得動向(2015年)~リスク回避の動きが不動産取引にも影響~」ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート、2015年3月17日
3 都市未来総合研究所の「不動産トピックス2017年2月」によると、速報ベースで前年比-7.4%。
 

2――海外資金による取得額の縮小

2――海外資金による取得額の縮小

J-REIT、私募REIT以外の投資主体のなかでは、不動産価格が大きく変動する際の原動力になることが多い海外資金の動向に特に注意しておきたい。

2016年の海外資金による日本国内の不動産取得額は、前年比3割減の約6,000百万米ドル4であった(図表-5)。直近のピークとなった2014年からほぼ半減し、2012年の水準も下回るなど、アベノミクス開始以前の水準に戻っている。2016年の大半は、為替相場が円高ドル安で推移し、米ドル建てでみた日本の不動産価格は高値を更新し続ける状況であった。そのため、海外資金にとって高値を追いかける形での取得は難しかったとみられる。

また、2013、2014、2015年には、1,000百万米ドルを超える巨大な取引5が海外資金による取得額を膨張させたが、2016年には、そのような例外的に大規模な取引はみられなかった。加えて、2016年には、100百万米ドルを超える大規模な取引事例は7件に止まり、2015年の12件から大きく減少していた。
図表-5 海外資金による国内不動産取得額
 
4 海外からの視点として、金額は米ドル建て表記としている。
5 2013年のグローバルコンソーシアムによる芝パークビルの取得、2014年のGIC(シンガポール)によるパシフィックセンチュリープレイスの取得およびブラックストーン(米国)による日本GE住宅ポーフォリオの取得、2015年のCIC(中国)による目黒雅叙園の取得。
Xでシェアする Facebookでシェアする

増宮 守

研究・専門分野

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【海外資金による国内不動産取得動向(2016年)~アベノミクス開始以前の状況に後退~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

海外資金による国内不動産取得動向(2016年)~アベノミクス開始以前の状況に後退~のレポート Topへ