2016年08月18日

【フィリピンGDP】4-6月期は前年同期比7.0%増~民間・公共部門が揃って好調で5期連続の加速

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2016年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比7.0%増1の増加と、前期の同6.8%増と市場予想2(同6.6%増)を上回った。中国をはじめ新興国経済が減速するなか、フィリピン経済は5期連続で加速し、力強さが際立っている。

また4-6月期の海外からの純所得3は同6.2%増(前期:同9.9%増)と低下したことから、国民総所得(GNI)は同6.8%増(前期:同7.4%増)と低下した。
(図表1)フィリピン 実質GDP成長率(需要側)/(図表2)フィリピン 海外労働者送金額 需要項目別に見ると、民間部門と公共部門が揃って好調で、内需が成長率を押し上げたことが分かる(図表1)。

GDPの約7割を占める民間消費は前年同期比7.3%増となり、前期の同7.0%増から上昇した。食料・飲料やレストラン・ホテル、交通、娯楽・文化などが好調だった。前期に続いて低インフレと雇用・所得の改善が家計の購買力を向上させると共に、5月に行われた統一選挙関連の特需が消費を押し上げた。また海外労働者の送金額(ペソベース)は、世界貿易の低迷に伴う海上輸送の減少を受けて船員など海外就労者からの送金額が鈍化したものの、昨年進んだペソ安によって前年同期比7.9%増と、引き続き消費を支える要因となっている(図表2)。
(図表3)建設部門の粗付加価値額(GVA)/(図表4)フィリピン 実質GDP成長率(供給側) 政府消費は同13.5%増(前期:同11.8%増)と、4四半期連続の二桁増を記録した。統一選挙を前に政府支出が増加したことが影響した。

総固定資本形成は同27.6%増となり、高水準の前期(同26.6%増)から更に上昇した。まず設備投資は同42.8%増(前期:同39.8%増)と一段と上昇した。輸送用機器が上昇し、一般産業用機械や産業用特殊機械が好調を維持した。また建設投資も同14.1%増(前期:同13.0%増)と上昇した。政府のインフラ支出が好調で公共部門が全体を押上げていることが分かる(図表3)。

純輸出については、まず輸出が同6.6%増(前期:同7.3%増)と低下した。サービス輸出が同20.4%増(前期:同15.3%増)とBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)産業が好調で上昇したものの、財輸出が同4.1%増(前期:同5.2%増)と低調な海外需要と干ばつの影響で主力の電子部品やオフィス用機器、農産物を中心に低下した。また輸入は同20.9%増と前期の同19.0%増から上昇し、7期連続の二桁増となった。結果、純輸出の成長率への寄与度は▲6.6%ポイントと、6期連続のマイナスとなった。
 
供給項目別に見ると、農林水産業が前年同期比2.1減(前期: 同4.4%減)と低迷し、鉱工業が同6.9%増(前期: 同9.0%増)と鈍化した一方、GDPの約6割を占めるサービス業が同8.4%増(前期: 同7.6%増)と上昇し、成長率を押し上げた(図表4)。

サービス業では、金融(同6.6%増)が低下したものの、商業(同8.9%増)、運輸・通信(同7.0%増)、不動産(同9.4%増)、行政・国防(同6.4%増)、その他サービス(同9.4%増)がそれぞれ上昇した。
鉱工業では、製造業が同6.3%増(前期:同8.0%増)と石油製品やラジオ、テレビ・通信機器、織物、家具・備品を中心に鈍化したほか、鉱業・採石業が同9.7%減(前期:同11.2%増)とニッケルを中心に大幅に低下した。また建設業は同11.0%増(前期:同12.4%増)と公共部門を中心に2期連続の二桁増を記録した。

農林水産業では、農業が同1.3%減と前期の4.4%減から上昇したものの、2期連続のマイナスとなった。エルニーニョ現象による干ばつ被害を受けてコメやトウモロコシが減少した影響が大きい。また水産業も同5.9%減と、前期(同5.9%減)に続いて減少した。
(図表5)フィリピンの消費者信頼感指数、ビジネス信頼感指数 過去2四半期は選挙関連の特需が好調な経済を一段と押し上げ、政府の成長率目標(6~7%)を達成する可能性は高まった。しかし、今後は選挙関連需要が剥落するほか、年明け以降の通貨安定によって今後GDPの約1割に相当する海外就労者の送金額が伸び悩むことから、公共部門と民間消費は鈍化し、年後半の景気減速は避けられないだろう。

一方で好材料もある。干ばつの影響が残る農業は5月下旬に雨季入りしており、今後は農業生産が持ち直すと見込まれる。食料のインフレ圧力が抑制されるなか、インフレ率は当面2%台の低水準で推移し、現行の緩和的な金融政策も継続されるだろう。また企業と消費者の景況感も好調に推移しており(図表5)、民間部門を中心とした堅調な経済は続きそうだ。このほか、大統領選挙に勝利したドゥテルテ陣営が6月30日の政権発足を前に公表した経済政策4では、投資家からの評価が高かった前政権のマクロ経済政策を踏襲するとした。政策の不透明感は払拭されつつあり、海外からの投資が冷え込むリスクは低下したと言える。

新政権が早速取り掛かっている治安対策には人権侵害との批判があり、環境問題を背景とした鉱山の取り締まりも急進的なため、先行きには不安が残るものの、新政権の実行力の高さは確かのようだ。外資規制の緩和に向けた憲法改正や法人税率の引下げが実施されれば、PPPによるインフラ整備の加速や製造業の育成が進む。また人口抑制法が執行されれば、長期的に人口増に歯止めが掛かって労働需給が改善して格差是正にも繋がる。新政権の政策運営はこれまでの政権以上に中長期的な経済動向を大きく左右しそうであり、注意深く見ていく必要がありそうだ。
 
 
1 8月18日、国家統計調整委員会(NSCB)が国内総生産(GDP)統計を公表。前期比(季節調整値)は1.8%増と前期の同1.3%増から上昇した。
2 Bloomberg調査
3 フィリピンは海外の出稼ぎ労働者が多い。国内への仕送りは海外からの純所得として計上され、消費に大きな影響を及ぼす。
4 ドルテルテ陣営は、5月12日に8項目の経済政策方針、6月20日に10項目の社会経済プログラムを公表している。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

(2016年08月18日「経済・金融フラッシュ」)

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