2016年03月03日

不動産景況見通しの悪化に際して長期投資家に求められる対応

増宮 守

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2015年の下期以降、中国経済の失速懸念の高まりを契機に、株式市場や為替市場においてリスク回避の動きが顕在化した。2016年初も株価下落が加速する展開となっており、アベノミクス以降続いた右肩上がりのトレンドは、一旦途絶えた形となった。
 
不動産投資市場においても、2015年上期までの楽観ムードに陰りが表れている。2016年1月に実施した第12回不動産市況アンケートでは、「不動産投資市場全体の6ヵ月後の景況見通し」について、「やや悪くなる」または「悪くなる」(合計24.1%)が、「良くなる」または「やや良くなる」(合計21.5%)を7年ぶりに上回った(図表-1、2)。
不動産投資市場全体の6ヵ月後の景況見通し、不動産投資市場全体の6ヵ月後の景況見通し(DI)
景況見通しの悪化が示すように、不動産投資市場では取引価格の上値が重くなりつつあるとみられる。現在、リーマンショック後の景気の底から約7年になり、既に不動産価格サイクルが一巡しても不思議ではない期間が経過している。そのような中、キャピタルゲインに期待する短期的な不動産投資などについては、より慎重な姿勢が求められる。

対して、年金基金などの長期投資家が保有する不動産ポートフォリオについては、取引価格の変動から受ける影響は限定的とみられる。年金基金などの多くは、私募ファンドや私募REIT、あるいは現物不動産といった非上場の形態で不動産投資を実施している。ポートフォリオを構成する各物件の価格は鑑定評価額であり、一般に、鑑定評価額の変動は取引価格動向に遅行し、その変動幅も小さい。実際、アベノミクスが開始した2012年末からの価格推移をみると、鑑定評価額の上昇は僅か6.3%に止まっていた(図表-3)。株価が大幅に上昇する中、不動産投資市場でも高額の取引が増加しており、鑑定評価額と実態との乖離は大きいと感じられる。その遅行性から、鑑定評価額は今後も上昇し続ける可能性が高く、市況悪化により取引価格が下落する場合も、鑑定評価額の下落は限定的に止まると予想される。
不動産鑑定評価額と株価、J-REIT価格
もちろん、長期投資家にとっても、保有物件の売却を視野に取引価格動向は重要である。しかし、不動産の取引価格は株価のように明確に把握できるものではなく、また、価格下落を見込んで物件を売りに出す場合も、即時に売却できるほど投資市場の流動性は高くない。
 
そもそも、不動産賃貸収益は一般的な株式の配当金などよりも大きく、ある程度の価格変動を賃貸収益で補完し得ることが不動産投資の特徴のひとつである。そのため、長期投資家にとってまず重要なことは、毎年の賃貸収益の維持、改善である。また、価格サイクルよりも、各物件の立地およびスペックに関する長期的な競争力あるいは需要動向の予測、さらには、それらに対する戦略が重要といえる。
 
物件売買の判断についても、ポートフォリオ全体のバランスや長期的な戦略に沿う物件か否かが前提となり、また、タイミングに関しても、長期的な投資判断の基準が重要といえる。価格サイクルの転換点の見極めは容易ではないが、基準が明確であれば、長期的にみた高値圏での売却判断ができ、また、新規取得についても、さらなる価格上昇に期待してサイクルのピークで取得するような不利益を回避できる。
 

 
増宮守 「景況見通しが一変、悲観が楽観を上回る~不動産価格のピークは15~18年と見方分かれる~第12回不動産市況アンケート結果」ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2016年1月25日
増宮守 「不動産価格サイクルの先行的指標~ピーク感が強まる中、各指標の現状を確認~」 ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート、2015年8月28日

 
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増宮 守

研究・専門分野

(2016年03月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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