コラム
2013年11月26日

中学生に伝えたい経済のこと-貿易ゲームでグローバル経済を体験

  薮内 哲

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11月11日、東海大学付属浦安高等学校中等部(以下、東海大浦安中)で特別講座を行った。東海大浦安中では過去数年間にわたって、外部機関と協力して特別講座を展開している。今年度も当研究所が特別講座を受け持つ機会に恵まれた。
   今年度は「貿易ゲーム」と呼ばれるワークショップを実施した。「貿易ゲーム」は1970年代に英国のNGO、クリスチャン・エイド氏によって開発された参加型のワークショップで、“紙”を“資源”に、“はさみなど”を“生産道具”にみたて、製品を生産するなどし、できるだけ富を築くことを競う。現実の国家においても先進国、新興国、発展途上国など、国によって資源量や技術力に差があるように、分けられた班(チーム)によって、事前配布する紙(資源)やはさみなど(道具)の数量に差をつける。ゲームによる疑似体験を通して「貿易」が人々の暮らしにどのような影響を与えているか、また世界の国家間の諸問題について解決方法を考えていくことを目的としたものである。
   授業前には、通常の講義形式とは異なった試みが楽しみである一方、狙い通りに授業が進行できるか不安を抱いていた。とりわけ貿易ゲームという名のとおり、生徒達が自発的に貿易を行う、すなわち他班と交渉にのりだしてくれないと、貿易の必要性や意義を体感してもらえないからだ。しかも、生徒達には他の班と物を交換してもよい、などとは事前には伝えていない。また、今回は意図して、D~F班のように貿易をせずとも自国のみで生産活動に従事できるように資源・道具を配分していたこともある。(図表)

しかし、ゲームを開始してすぐに、生徒達がその不安を払拭してくれた。とりわけ、資源(紙)が足りないA~C班と道具(はさみなど)が足りないG~I班は、その必要性に気づき積極的に交渉を始めたからだ。当初の不安は杞憂だったようだ。
   さらに、生徒達は交渉する役、紙に製品の型を線引きする役、紙を切り取る役、そしてお金を管理する役など、班内で役割を分担するようになった。当然、自分が得意な役割(分野)に特化して分業体制を確立する方が社会全体の生産効率も増す。一つの班が一つの国のような動きをみせたのだ。

ゲームの結果は、I班が優勝、H班が第2位となり、資源(紙)が多く道具(はさみなど)が少ない状態からスタートした班が上位を占めた。この結果を受けて、資源を保有する班が強いと実感したはずだ。特に、資源(紙)の乏しいA~C班においては資源(紙)の確保がいかに重要な問題であるかを感じただろう。
   ただ、今回のゲームで一概にA~C班が優勝できる可能性が少なかったわけではない。現実、日本は資源に乏しいA~C班に近い。日本は資源には恵まれないが、生産技術を高め、この技術で成長してきた。生産技術も資源以上に製品を生み出す上で欠かせない重要な要素なのだ。このゲームでは「はさみ」など道具である。ゲーム後に生徒達に質問したところ、「はさみを紙2枚と」で交換していたという班があった。はさみを持っている班が、はさみを持っていないG~I班に交渉する際、生産技術にあたるはさみの価値を高く評価する班を選び、3枚以上の紙の量で交換していれば、結果は変わっていたかもしれない。

一方で、D~F班は資源(紙)も道具(はさみなど)もゲーム開始時から所有しているため、貿易を行わなくても一定程度は製品を生産できた。ただ少しでも多く製品を作ろうとするなら、追加の資源(紙)の獲得が必要になる。より多くの資源(紙)を獲得する目的や他の班からの働きかけによって、D~F班も班内での生産に留まらず、貿易交渉する動きを見せてくれた。
   ゲーム後の生徒の感想から「できるだけ沢山の人(班)と交渉すればよかった。」という回答が得られた。ゲーム後ではあるが、多くの班が貿易交渉の場に参加することは、交渉の機会を増やし、それぞれの班にとってよりよい条件で貿易が成り立ち、ひいては全体としてより多くの製品が生産できることに気付いてくれただろう。

授業の最後に「もし、資源も道具もない国があったらどうするか?」という問いを生徒達に投げかけた。世界には様々な国があり、資源も技術も豊富な国もあれば、資源も技術も少ない国もたくさんあるからだ。
   振り返れば、先進国の日本でさえも2011年3月に発生した東日本大震災においては、142の国と地域、39の国際機関から支援の申し入れがあった。直近では、超大型の台風により多大な被害を受けたフィリピンに対して日本を含む多くの国々が支援を開始している。自国の事ばかりだけでなく、他国への無償支援(助け合いの精神)も現実には行われている。日本は、ODA(政府開発援助)を通じて支援を行っている。
   この質問の意図は、今日の世界において、物やお金の交換という貿易だけではなく、先進国の日本だからこそできる国際社会への係わり方についても考えてほしいと考えたからだ。

貿易ゲームは世界経済の縮図と言える。ゆえに様々な切り口がある。生徒達には今回の経験を通して、上記にあげた事案や今後起こる現象などを考えるきっかけとなれば幸いである。

最後に、不慣れな自分に特別授業という機会を与えてくださり、打ち合わせ段階からアドバイスをしてくださった東海大浦安中の中尾先生、福村先生、横尾先生、そして当日、元気に授業を受講してくださった生徒の皆さんとその親御様に心から感謝を申し上げたい。


 
東海大学付属浦安高等学校中等部のウェブサイト(http://www.urayasu.tokai.ed.jp/junior_news/20121127-1.html)を参照。筆者と経済研究部の高山が講師を担当した。

「貿易ゲーム」については、開発発教育協会・かなざわ国際交流財団の「新・貿易ゲーム(改訂版)~経済のグローバル化を考える~」にて詳細に紹介されている。

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