コラム
2008年01月21日

地方公共団体に対する「財政再生基準」と「早期健全化基準」の読み方(3)-将来負担比率に込められた意味

石川 達哉

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1.指標の公表は1年早い2008年度からスタート

昨年の12月28日に細部規定に関する施行令が公布されるなど、地方財政健全化法の2009年4月本格施行に向けた準備は着々と進行している。指標公表に関しては、それより1年早い施行期日とすることを定めた施行令も同日公布されたので、実務レベルでの指標算定規定に関する総務省令など、関連法令の整備も3月末までに完了することだろう。

健全化法に基づく4指標はだいたい半年後に公表される見込みであり、その際、どのような公表値となるか、特に注目されるのが「将来負担比率」である。残りの3指標のうち、「実質赤字比率」と「実質公債費比率」は現行制度下でも使われている指標であり、また、同じく新規導入される「連結実質赤字比率」も決算資料に基づいて現時点での概算値を第三者が試算することが可能なのに対して、「将来負担比率」は概算することさえも困難だからだ。

しかも、(1)初のストック指標であること、(2)地方公社や第3セクターに対する債務保証・損失補償も算定対象となること、(3)早期健全化判断比率にのみ採用され、財政再生判断比率としては採用されないこと、(4)早期健全化基準として設定された数値が都道府県の方が市町村よりも高いこと(都道府県400%、市町村350%)など、指標としての特徴も他の3指標とは異なっている。
4指標により財政再生基準と早期健全化基準の比較

2.呼称にとどまらない「将来負担比率」の意味

この将来負担比率の内容を簡単に言えば、地方債残高から積立金等の基金残高を控除した純債務残高を標準財政規模で除した、いわば「債務残高倍率」がベースとなっている。もちろん、債務残高倍率のように単純な指標ではなく、まず、地方債残高のうち償還までの間に今後の交付税によって措置される予定の金額が分子・分母から控除される。逆に、他会計の準公債費に対する普通会計の負担や補助は加算される。したがって、ここまでは、実質公債費比率をストック概念に拡張したものと言えるだろう。さらに、連結実質赤字額、職員が自己都合退職した場合の支給総額、地方公社や第3セクターに対する債務保証額・損失補償額の相当部分や債務負担行為に基づく支出予定額までもが分子に加算されるから、実質公債費比率よりも一段と「厳しく」財政状況をトレースする指標である。

広範囲の「負担」を分子としながらも、分母が普通会計の標準財政規模、つまるところは一般財源をベースとしているのは、形式的には他会計や別法人が負う債務であっても、負いきれない部分は、究極的には普通会計における一般財源で負担することになるからであろう。このように、将来負担比率は、地方公共団体の総合的な財政状況を把握することと、全会計の中核にある普通会計を算定の基盤に据えることとを両立した、優れた指標と言えよう。

にもかかわらず、財政状況が著しく悪化した団体に対して、国の関与の下での再建の必要性を認定する再生判断比率として採用されていないことについては、多くの人が違和感を持ったことだろう。その理由自体は、はっきりとしている。もともと、健全化法は2006年末に公表された「新しい地方財政再生制度研究会報告書」に基づいているからである。そこでは、「ストック指標は、将来のフロー悪化の可能性を捉えているものの、それ自体では直ちに財政悪化が切迫した状況とは必ずしも言えず、現実に切迫した状況は、実質収支(赤字)比率等のフロー指標で捉えられる」、「再生段階の基準としてはフロー指標のみを用いる方向で検討すべきである」という判断が示されている。少なくとも、過去のフローの悪化が蓄積された結果としてストックの債務を捉える立場は採られていない。

ストックを将来のフローの先行指標として見れば、地方債残高は、地方公共団体のキャッシュフローから将来流出する償還金の現在価値を示している。その償還額が大きければ、将来の実質収支が赤字になる可能性が高まるし、何よりも歳出の配分における自由度を奪ってしまう。債務残高倍率というような分かり易い呼称ではなく、将来負担比率という呼称が用いられているのも、「将来」を警告する役割に重きを置いているからかもしれない。

そして、地方債の平均残存期間は都道府県の方が市町村よりも長ければ、1年当たりの償還額が同じでも、ストックの値は都道府県の方が大きくなる。その場合、警戒すべき水準、すなわち早期健全化基準は都道府県の方を高く設定すべきだということになる。

このような文脈で考えると、新指標としての注目度の高い将来負担比率も、根底にある理念は現行指標のそれと異ならない。むしろ、実質赤字を重視する現行制度の枠組みは、健全化法に基づく新しい再建・再生制度に引き継がれ、強化されるとさえ言えるだろう。
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