コラム
2007年12月26日

地方公共団体に対する「財政再生基準」と「早期健全化基準」の読み方(2)-連結実質赤字比率導入の影響

経済研究部 主任研究員   石川 達哉

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1.国民健康保険事業を背負う市町村

連結実質赤字比率は、公式指標としては初めての連結ベースの指標である。普通会計に連結されるのは、上下水道・病院・交通などの公営企業会計と国民健康保険や介護保険などの公営事業会計である。つまり、「連結ベース」とは、「全会計ベース」にほかならない。
   そして、都道府県と市町村では所管する行政領域が異なるため、実質収支が全会計を対象に集計されることの影響は、都道府県と市町村では大きく異なるはずである。
   例えば、国民健康保険事業には都道府県は直接関与せず、保険料徴収や各種給付事務を含めて運営を各市町村が行い、給付費に対する国庫補助を受けている。介護保険事業や老人保健事業については、国だけでなく、都道府県と市町村も費用を分担しているが、運営するのは、やはり、市町村である。
   しかも、国民健康保険事業の支出総額は全市町村合計で11兆円と、普通会計の歳出総額の約1/4の大きさである。医療給付は病気やケガという偶発的事象に伴うものであり、その発生頻度を安定的な確率構造とみなせるほど十分な数の加入者がいなければ、収支が不安定に変動することは避け難い。人口の少ない市町村にとっては、収支を安定化させることは容易ではないであろうし、高齢者の多い地域では、給付と負担のバランスを保つことと、加入者負担が過重にならないようにすることを両立するのは非常に難しいであろう。

図1

実際、厚生労働省の集計によると、単年度収支が赤字の団体が過半数を超える状況が何年も続いている。地方財政における実質収支概念は、単年度の収支の累積額に近いため、国民健康保険事業の実質収支が赤字となる団体は上表の団体数ほど多くはない。それでも、2005年度の実質赤字団体が、普通会計ではわずか24市町村にとどまるのに対して、国民健康保険会計に関しては137市町村も存在する。
   したがって、国民健康保険会計が連結対象となることによって、赤字市町村を増やす要因として働くことはほぼ確実である。

2.交通事業と病院事業も連結赤字の要因に

地方公共団体は、公営企業を通じて、水道、工業用水道、下水道、病院、交通、電気、ガスなどの公共サービスを提供している。このうち、下水道と水道の事業数は地方公共団体数を上回っている。しかも、都道府県の運営による事業数は1~2%である。

図2

一方、事業種類別の平均規模を建設投資と企業債の発行及び現在高について見ると、事業数自体は少ない交通事業の値が群を抜いて高い。第2位、第3位は下水道事業、病院事業であり、上位事業は初期投資や更新投資が相対的に大きい点で共通している。特に、交通事業の金額を押し上げているのは、政令指定都市と東京都の地下鉄事業である。

図3

したがって、人口の少ない市町村を含めたすべての団体に対して重い存在となっている可能性があるのが下水道事業、政令指定都市固有の存在が地下鉄事業、約1/3の団体が保有する病院事業が両者の中間的な存在と言える。
   下水道事業の一部と交通事業・病院事業の会計様式には実質収支は存在しないため、連結に際しては「不良債務」か、それに準ずる「実質資金不足額」が用いられる見込みである。「不良債務」というのは、累積損益、累積キャッシュフローに相当する概念である。平均値で見る限り、交通事業と病院事業には、その不良債務が存在しており、連結後の実質赤字比率の押し上げ要因となることは確実である。
   連結実質赤字比率による財政再生基準が都道府県15%、市町村30%、早期健全化基準は都道府県8.75%、市町村16.25~20%と、市町村にやや大きめの幅を容認しているのは、このような背景があるからであろう。まだ、最終決定には至っていないこともあって、国民の関心が十分に高いとは言えないが、当事者意識を持って自分の住む市町村の実情を知り、問題の所在がどこにあるかを真剣に考えるべき機会だと言えるだろう。

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経済研究部   主任研究員

石川 達哉 (いしかわ たつや)

研究・専門分野
財政・税制、家計貯蓄・住宅

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