コラム
2007年12月17日

地方公共団体に対する「財政再生基準」と「早期健全化基準」の読み方(1)

経済研究部 主任研究員   石川 達哉

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1.実質赤字比率と実質公債比率に基づく「財政再生基準」は現行制度と実態的に同じ

地方公共団体の2008年度決算から適用される健全化判断比率と再生判断比率に関する具体的な基準が12月7日付けで提示された。正確に言えば、6月に成立した「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(以下、「健全化法」と略記)において「政令で定める数値」と記されている部分について、政令に盛り込まれる予定の内容が総務省から地方公共団体に通知され、その内容を示す資料が総務省のホームページに後日掲載された。
   この「健全化法」が国会で可決された際には、「画一的な指標・基準とせず、地方六団体の意見が十分反映されるようにすること」などの附帯決議もなされ、「政令整備の進捗に応じて行う意見照会」を踏まえて、今回の公表内容にも修正が加えられる可能性が残っている。実際、地方公共団体から総務省に寄せられた意見等とそれに対する総務省の見解については、11月段階でとりまとめた資料もすでに公開されており、12月時点でとりまとめられた今回のものと見比べると、「経過措置」をはじめ幾つかの論点に関して、総務省が示した見解とその根拠に対して、具体的な理由を伴う形で地方公共団体から再要望が寄せられていることが分かる。

図1

「意見等」と「見解」という形で記された地方公共団体と総務省の間の議論は、4つの指標のうち、主として連結実質赤字比率と将来負担比率の算定プロセスに向けられており、「財政再生基準」よりも「早期健全化基準」に関するものである。残りの実質赤字比率と実質公債費比率に関しては、現行制度の中で、今回提示された「財政再生基準」と同一水準でほぼ同内容の措置が発動されるからであろう。
   例えば、これまでの財政再建制度においては、実質赤字比率が5%以上の都道府県と20%以上の市町村は、「財政再建準用団体」として国の直接管理下で再建をはかる場合のみ地方債を発行することが許され、それ以外は起債が認められない規定となっている。これを定めている地方財政再建促進特別措置法は健全化法の施行に伴って廃止されるが、健全化法の下で「財政の再生」を図るべき基準、すなわち、「財政再生基準」のひとつとして採用されている実質赤字比率に関して、今回提示された「都道府県5%、市町村20%」という水準はこれまでと何ら変わらない。
   また、地方債全般の信用維持を目的として、協議制度下での管理指標として2006年度に導入された実質公債費比率に関しては、35%以上の団体は一般公共事業債の起債が不可とされているが、「財政再生基準」としての実質公債費比率に対して今回提示された水準も35%であり、この点でも実態的な違いはないと言える。

図2

2.地方債協議制下の早期是正措置よりも緩やかな「早期健全化基準」

実質赤字比率と実質公債費比率に関しては、地方債協議制度における「早期是正措置」を講ずる際の指標としても用いられており、一定の水準を超える団体は、起債許可を要する「許可団体」として位置づけられ、原則的に自由な起債が可能な「協議団体」とは峻別されている。その水準は、実質赤字比率については「都道府県2.5%、市町村は標準財政規模に応じて2.5~10%」、実質公債費比率については「18%」が適用される。このうち、実質公債費比率が18%以上25%未満の団体は、公債費負担適正化計画の策定を前提に地方債の発行が全般的に許可される「一般的許可団体」として扱われ、25%以上の場合は、一般単独事業債の起債が許可されない「起債制限団体」として扱われる。
   これに対して、健全化法における「早期健全化基準」として今回提示された水準は、実質赤字比率については「都道府県3.75%、市町村は標準財政規模に応じて11.25~15%」、実質公債費比率については「18%」とされている。
   つまり、実質赤字比率と実質公債費比率に限定すれば、地方債協議制度における「協議団体」に求められる要件の方が、健全化法における「早期健全化基準」よりも厳しいものである。地方債協議制度における早期是正措置には健全化法を補完する役割が期待されると言えるし、健全化法において実質赤字比率と実質公債費比率に基づく「健全化基準」が担う機能は、「早期是正」といっても財政状況の悪化がある程度進んだ団体に対するものと位置づけることができる。

3.連結実質赤字比率に対する経過措置は深慮によるもの?

いずれにしても、健全化法の施行によって、地方公共団体の財政状況に対する「危機管理」に実態的な変化をもたらす可能性があるとすれば、新たに導入される連結実質赤字比率と将来負担比率のいずれかと言える。
   実際、12月7日付けの「通知」資料においては「連結実質赤字比率は、法で導入された新しい指標であることに鑑み、財政運営に大きな制約を与える財政再生基準については、3年間の経過的な基準を設ける予定」と記されていることから、地方公共団体から寄せられた「経過措置」に対する「意見等」の強さが推し量られるし、それを認める判断を総務省が下しつつあることも想像できる。
   しかし、連結実質赤字比率に基づく「早期健全化基準」や「財政再生基準」が妥当なものであるならば、その基準を緩和したり、適用の時期を遅らせたりすることは、健全化法本来の趣旨に反することになるのではないか。
   逆に、基準の妥当性が十分ではなくて、健全な団体とさほど変わらない団体を危機的な財政状況にある団体と判定したり、正常な変動の範囲にある一時的な振れを状況の趨勢的悪化と判定したりする可能性があるのであれば、経過措置などではなく、指標細部における定義式や基準数値を根底から見直すことが必要だということになろう。
   また、普通会計、公営企業会計、公営企業会計以外の特別会計をすべて連結したベースで財政状況の悪化が進んだ団体に対して、「財政運営に大きな制約を与えること」としないとしたら、どのような代替的な方法で状況の改善を図るのであろうか。

現時点ではこれらの疑問を霧消させることはできない。敢えて言えば、地方債協議制度における早期是正措置との補完関係も合わせたうえで、実質赤字比率と実質公債費比率に基づく「早期健全化基準」や「財政再生基準」が、現行制度における規定と実態的に変わらないことから、たとえ、連結実質赤字比率に基づく基準に対する経過措置を設けたとしても、制度としての機能が少なくとも現状よりも後退することはないであろう。
   それだけではなく、判定基準としての適用時期が後ずれしても、すべての団体において、連結ベースの指標やストックベースの指標が正式な決算数値として算出され、外部監査を経て、報告・公表されることが予定通りに実現するならば、情報開示は確実に進展するし、それを担保する仕組みも強化される。そうした深慮があってとのことかもしれない。
   新指標とこれらの意義については、稿を改めることとしたい。

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経済研究部   主任研究員

石川 達哉 (いしかわ たつや)

研究・専門分野
財政・税制、家計貯蓄・住宅

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