コラム
2007年09月18日

米国以外でも変調の兆しが見える住宅価格  -サブプライムローン問題で問い直される価格上昇の持続可能性

経済研究部 主任研究員   石川 達哉

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日本とドイツを除くほとんどすべての先進国において、住宅価格は過去10年の間に著しい上昇基調を続けてきた。特に、北欧の国々では、一時的な調整期間を挟むケースを含めて、息の長い住宅ブームとなっている。各国のブームを支えたのは、借入金利の低下と利用しやすい形態の住宅ローンの登場である。例えば、スウェーデンでは住宅ローン残高の3分の1を占めるまで変動金利型ローンの普及が進み、フィンランドにいたってはその割合は95%に達している。デンマークにおいては、単に変動金利型ローンの普及が進んだだけではなく、利払いのみで、元金の返済を求めないというタイプのローンも2003年から利用可能となり、1999年時点では80%を超えていた伝統的な固定金利型ローンの割合が2005年には40%を割ってしまったほどである。ノルウェーでも、低所得層の借入れが急増しているという。

このような住宅ローンの利用可能性の向上は、これまで住宅を購入した経験のない世帯による持家取得を促進させることにとどまっていない。住宅価格の上昇に伴って、すでに保有している持家の担保価値が高まったことで、住宅の新規取得は行わない世帯に対しても、借入額を増やすことを可能にしたのである。そして、家計が負債の増大と引き換えに得た資金の一部は消費に向けられている。このような傾向は、持家に対して複数の抵当を設定したり、住宅ローンの借換えを行ったりすることが一般化している米国、英国、オーストラリアにおいて、より顕著に観察される。

消費が堅調に推移する一方で、多くの国で貯蓄率は低下し、フィンランド、デンマーク、オーストラリアなどではマイナスの値を示している。結果としての家計貯蓄率の低下は同じでも、所得の低迷や高齢者世帯の増加を主因とする日本のそれとは、背景は著しく異なるものと言える。
過去10年間の住宅投資、民間消費、家計貯蓄率の実績(国民経済計算ベース)
そして、持家、負債、消費の間の正の連鎖が、この間の経済成長を支える重要な要因となってきたことは言うまでもない。経済成長率への寄与度という面では、住宅投資ブームが続いただけではなく、住宅価格の上昇によって消費が増えるメカニズムが働いたことの方が大きい。また、住宅価格の国際的な連動性が高まり、これまでのところは、各国の住宅市場が相互にプラスの影響を与え合ってきたことも指摘されている。
実質住宅価格の推移(2000年第1四半期=100)
しかし、そうした国際的な傾向にも変化が生じている。特に、サブプライムローンの不良債権化が発覚した米国では、15の州において、住宅価格が前期比で下落している。名目ベースの指数を見る限り、米国全体の住宅価格は現在も上昇を続けているが、民間消費デフレーターで実質化した指数を作成すると、実質価格はすでに今年の第1四半期から下落していることが判る。

世界の金融市場に激震が走ったのは、証券化された住宅ローン債権のリスク評価や住宅ローンに関する原契約段階での審査基準の実態が不透明なため、サブプライムローンから派生した商品を何らかの形で保有している金融機関が、住宅分野に限らず、信用供与を全般的に縮小させる懸念があるためである。そのような影響は考慮せずに、住宅価格下落の直接的な効果のみを考えたとしても、家計の消費を抑制させる力が働くことは必至である。家計のバランシートにおいて負債が突出することとなり、資産と負債のバランスを回復させるには、所得の中から新たに貯蓄に向ける割合を増やし、債務を返済するよりほかはないからである。

米国以外の国にも目を向けると、2004年第3四半期から2006年第3四半期までの2年間に、名目価格が44%、実質価格が38%という異常なほどの高騰を見せたデンマークにおいて、2006年第4四半期からは住宅価格はともに下落している。ノルウェーでも価格上昇率は全般的に鈍化し、一部の都市で新築住宅の価格が下落し始めている。数は多くないが、フィンランドでも下落へと転じた都市が現れている。

2004年から2005年にかけて「踊り場」的な調整期間を迎えた後、価格上昇が続いてきた英国、オーストラリアのうち、オーストラリアでは一部の州都で名目ベースでも下落が生じているのに対して、英国に関しては全地域で価格上昇が続いている。同様に、スウェーデンは全地域で住宅価格の上昇が続いている。

このように、各国の住宅市況にも微妙な違いが現れている。今後は、各国固有の要因を強く反映した価格動向となるのか、それとも、時期の違いを伴いながらも価格下落が国際的な潮流となるのか、現時点で判断することは容易ではない。

しかし、一部の国において、金利の低下幅や家賃の上昇幅に比べて、住宅価格の上昇ペースが急過ぎることはOECDなどによって再三指摘されており、今後の住宅価格が下落しても驚くには当たらない。
世帯レベルで見た家計の負債保有の動向
しかも、スウェーデンやノルウェーでは、家計の所得に対する負債の水準やその上昇幅が米国を上回っており、住宅価格が下落基調へ転ずれば、住宅価格と消費の負の連鎖が起きる可能性は米国以上に高いとさえ言えるかもしれない。もっとも、両国の場合は、家計の所得と資産・負債に関する調査が定期的に実施され、課税台帳との照合も行われているがゆえに、家計の負債保有の動向が把握できていることも事実である。資産と負債に関する世帯レベルの調査統計が整備されている国は、むしろ、少数派である。住宅価格の下落に対して非常に脆弱な構造を有する家計が多いのは、世帯レベルの統計が公表されていない国の中にあるのもかもしれない。

こうした点も考慮に入れると、米国や北欧の国々に限らず、各国の住宅価格の動向から目を離せない状況が当面は続きそうである。

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経済研究部   主任研究員

石川 達哉 (いしかわ たつや)

研究・専門分野
財政・税制、家計貯蓄・住宅

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