コラム
2007年03月05日

地域景気と公共投資の縮小

篠原 哲

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2002年1月を底に始まった今回の回復局面は、長さでは戦後最長となった。しかし、その一方では、景気回復の力強さに乏しく、特に地域間で景気の回復に格差があることがよく指摘される。そして、このような地域間の格差の原因として、挙げられるもののひとつに公共投資の縮小がある。

公共投資は、日本経済において長らく景気対策の代名詞であり、大都市に比べて回復が遅れがちな地域経済の景気の牽引役ともなってきた。しかし、近年の日本の財政は大幅な赤字が続き、2000年には政府債務残高が、GDP比で先進国最悪の水準になるなど、景気対策による弊害も顕在化してきたため、財政再建路線が打ち出され、公共投資も規模の縮小が進められている。実際に、今回の景気回復は、外需の改善から、設備投資・消費など国内民間需要への波及というかたちでもたらされたもので、公共投資は減少を続けている状況だ。

近年の公共投資の縮小による経済成長への影響は、日本全体では、消費や設備投資の改善により吸収されてはいる。しかし、地域別で考えてみると、公共投資への依存度が高い地域にとっては、景気の回復にマイナスの影響を与えかねない要因ともなる。各地域の総生産に占める製造業(なかでも今回の景気の牽引役のひとつである機械工業)のウェイトの差異という、各地域の産業構造要因に加えて、近年の公共投資の縮小も、地域間における景気回復の格差に繋がっている可能性もあるだろう。
 
今回の景気回復局面における、公共投資依存度と改善幅の関係
そこで、今回の景気回復局面における、「景気回復と公共投資依存度」の関係を地域ごとに見たものが上の図表だ。この図表では、左上の地域は、「公共投資の依存度が低く、景況感の改善の度合いが大きい地域」を、逆に右下の地域は「公共投資の依存度が高く、景況感の改善の度合いが小さい地域」を表わすことになる。ここからは、東海や近畿など、相対的に公共投資への依存度が低い地域では、今回復局面における景況感の改善幅も大きい。逆に北海道、東北、四国、九州など、相対的に公共投資に対する依存度が高い地域では、景況感の改善幅が小さくなっていることが分かる。これは、公共投資の依存度が高い地域ほど、公共投資縮小による景気へのマイナス影響が大きく、結果的に、地域間の景気回復の格差の原因のひとつになっている可能性を示すものではないだろうか。

とはいえ、いまの日本の財政状況を考慮すれば、以前のように、公共投資の規模を拡大し、地域経済の景気回復を牽引する役割を求めることは難しい。もちろん、無駄と考えられる事業は徹底して排除する反面、必要なインフラなどへの投資については規模を維持・拡大していくべきではあるが、当面のところ、国全体の公共投資の規模は、縮小傾向が続くことは避けられないだろう。このため、今後は、公共投資に対する依存度が高い地域においては、これまで以上に中長期的に公共投資に対する依存から民需中心の産業構造に転換を図っていくことが重要性を増すと考えられる。このような、構造転換は決して一朝一夕でできるものではないが、実現に向けて、規制改革や民間の活動領域の拡大などの政策的対応とともに、人材育成や地域の特性に即した産業の活性化など、民間企業・地域社会一体となった、継続的な自助努力が求められてくるだろう。
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