コラム
2006年03月06日

遅行指数が教えてくれるもの

  篠原 哲

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1.注目度が低い遅行指数

日本経済は、2002年1月を谷とする息の長い回復が続いている。景気回復もすでに5年目に入り、いざなぎ景気を超えて、戦後最長の景気拡張局面となることも視野に入ってきた。内閣府が公表している景気動向指数を見ると、現状の景気の方向性を示す一致DIは12月で100%と、3ヶ月連続で景気の転換点を示す50%を上回っている。また、現状の景気の量感や拡大のテンポを把握できる一致CIも、2005年後半から改善傾向が明確になっており、12月には110.9と、バブル期のピークである1990年10月の112.4に近い水準にまで拡大している。足元の景気は2004年後半からの踊り場を脱して、再び回復の勢いを強めている様子が窺える。
ところで景気動向指数には、一致指数以外にも、景気に数ヶ月先行して動く先行指数と、数ヶ月遅行する遅行指数がある。先行指数は、景気の先行きを予測することが可能であるため、一致指数とならんで市場の注目度は高い。一方で、遅行指数は、景気局面や転換点を後から確認する目的で作成されており、実際の景気動向から遅れて動くため、ほとんど注目されることがないのが現状だ。

2.遅行指数から何が分かるか

遅行指数は、景気動向に遅れて推移する6指標で構成されている。一致指数は製造業の生産活動を示す指標が中心の構成であるが、遅行指数は、常用雇用指数(製造業)、完全失業率、家計消費支出(全国勤労者世帯)という消費・雇用の動向を示す指標が半数を占めており、一致指数に比べて、家計部門のウェイトが大きいことが特徴として挙げられる。 
その他の指標では、設備投資、法人税収入、企業向けサービス業の活動を示す第3次産業活動指数(対事業所向けサービス)が採用されている。生産活動よりも、最終需要に近い企業部門の指標が、残りの半数を占めていることになる。
これらの指標で構成されている遅行指数には、景気の変動による最終需要や雇用動向への波及の度合いや、その回復の力強さを把握することもできるというメリットがある。消費や設備投資などの、最終需要の動向を示すという点では、遅行指数はもっと注目されても良いはずである。特に、家計の景気変動に対する実感を表すという意味では、一致指数よりもむしろ遅行指数の動向の方が、それに近いものと考えられるだろう。
たしかに、遅行指数では景気局面の先行きや現状を判断することは困難であるが、だからと言って、それだけで軽視してしまうには、あまりにももったいない統計なのではないだろうか。

3.最近の遅行指数の動向

一致CIの動きが示すように、日本経済は2004年後半以降、踊り場の状況にあり、IT関連分野の在庫調整等により、製造業の生産活動は著しく停滞した。しかし、その一方で遅行CIの動きには踊り場による影響は表面化しておらず、2002年5月を底に、総じて改善を続けている。構成指標の動きを個々に見ても、たとえば、第3次産業活動指数(対事業所サービス業)などは踊り場でも総じて改善を続けており、2003年までは5%台であった完全失業率も最近では4%台中頃まで回復するなど、雇用環境の改善も著しい。踊り場で生産活動は停滞したが、遅行CIの動きからは、雇用環境や、家計や企業の最終需要部門は、むしろ堅調に回復を続け、景気拡大のすそ野が広がっていたことが示される。
最近の一致CIに見られるように、景気は踊り場を完全に脱却し、再び回復の勢いを増している。遅行CIもすでに、過去2回の景気拡張期のピークの水準を越えており、12月には120.8とバブル期に近い水準にまで回復している。景気が再び加速するなか、当面、遅行指数である最終需要や雇用部門の改善傾向も続くことが期待される。
 

 

 

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