コラム
2005年11月07日

ニッポンの内と外で始まる人口減少

経済研究部 主任研究員   石川 達哉

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1.「日本は人口減少、世界は人口増加」は正しいか?

最も正確な数値は10月に実施された国勢調査の集計が終わらないと判明しないが、今年は日本の総人口が減少に転じる節目の年になりそうである。国内の人口・世帯の実態調査を目的として行われる国勢調査は85年前の1920年に開始されたに過ぎないが、広義の人口調査とみなせる戸籍調査に関しては、起源を奈良時代の律令体制下(670年)にまで遡ることができる。それ以前の時代に関しても、人口史家や人口研究者による推定値があり、飢饉・戦乱・疫病の流行以外の原因、すなわち、少子高齢化によって総人口が減少することは、おそらく、日本の歴史が始まって以来の最初の経験になるはずである。
そして、人口減少に転じる年が1、2年先になったとしても、その後は趨勢的な減少が続くということに関しては、ほぼ確実であろう。現在の1億2769万人という日本の水準は世界11位にランクされるが、その順位は2050年には20位程度にまで後退する見込みである。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(平成14年1月推計)」における中位推計(合計特殊出生率が最終的に2000年実績の1.39まで回復する想定)によると、2050年の総人口は1億59万人と現在から21%も減少することが予測されている。低位推計(合計特殊出生率が最終的に1.10まで低下する想定)に基づくと、その数字は現在より28%も少ない9203万人にとどまる。
これに対して、現在64億6475万人という世界の総人口は、今後も増加を続けると予測されている。国連人口部の中位推計(標準的な合計特殊出生率を1.85と想定)によると、2050年における世界人口は現在より40%増えて90億7590万人に達する見込みである。低位推計(標準的な合計特殊出生率を1.35と想定)の場合でも、現在より19%多い76億7971万人が見込まれている。

これらの数字だけを並べて、「日本は人口減少、世界は人口増加」と言いたくなるところだが、そこには大きな落とし穴がある。確かに、世界全体の人口は増加を続けるであろうが、大多数の国にそれが当てはまるという訳ではないからである。2050年の人口が現在よりも少ないと予測されている国は日本以外に48カ国も存在する。今後10年以内に人口減少に転ずる国に限定しても、日本のほかに28カ国がそれに該当する。

人口変化の先行指標である合計特殊出生率を見ると、人口減少に向かって進んでいる国はさらに多いことが分かる。現在の人口を維持するのに必要な合計特殊出生率、所謂「人口置換水準」とされる約2.1を下回っている国は65カ国あり、それらの国々の人口総数は世界全体の48%にも相当する。
つまり、時期が日本とは異なるとしても、人口減少期を迎える国は少数派とは言えないのである。


2.高齢化進行は日本が最速か?

今後50年間にわたって、人口減少と同時進行していくのが更なる高齢化である。総人口に占める65歳以上人口の割合に関して、1980年代前半までは、先進国の中で最も低い国が日本であったが、日本の水準は今や世界最高の20%に達している。今後も65歳以上人口の割合は上昇を続け、2050年には36%に達すると予測されている(中位推計値)。
ところで、高齢化進行の速度を測る指標としては、「倍化年数」、すなわち、「65歳以上人口の割合が7%から14%に到達するまでの年数」がしばしば用いられる。これまでの実績値で国際比較する限り、1970年から1994年の24年間という日本の記録が世界最短である。先進国の中では日本に次いで「倍化年数」の短いドイツでも、1932年から1972年までの40年間を要し、フランスにいたっては1864年から1979年までの115年もかかっている。際立って高齢化の進行速度が速かったのが日本と言えるであろう。
ただし、それが当てはまるのは、これまでの先進国に関してのみである。今後は、日本と同程度かそれより短い「倍化年数」を記録する国が続出する見込みだからである。例えば、シンガポールの「倍化年数」は16年、韓国は17年と予測されている。「倍化年数」30年以下と予想される他の国や地域を列挙すると、ベトナム、タイ、メキシコ、インドネシア、フィリピン、中国、台湾、ペルー、ブルネイ、マレーシア、チリなどアジアと中南米の新興経済国の大半が該当する。

考えてみれば、人口置換水準を下回るレベルまで合計特殊出生率が低下していれば当然のことながら、そうでなくても、合計特殊出生率の大幅な下落と死亡率の低下が同時に起これば、人口の年齢構成におけるバランスが崩れ、何十年か後には深刻な高齢化が進むはずである。

上の散布図は、世界の192の国と地域を対象に、現在の合計特殊出生率の水準と30年前からの変化幅とを対比させたものである。「現時点で合計特殊出生率が高く、かつ、30年前と比べてほとんど低下していない国」が少ないことは一目瞭然であろう。しかも、それらの大半は購買力平価で換算した1人当たりGDPが1000ドルに満たない国々である。このような国々においても、貧困の問題が緩和され、衛生や教育の環境が改善すれば、出生率と死亡率がともに急低下する公算は高い。

これらの国々を除いても、短期間での出生率低下を既に経験したか、今後そうなることが予想されている国が多数派なのである。やや乱暴だが、高齢化が緩やかに進んだ欧米の先進国がむしろ例外的な存在であり、残りの国々は急速な高齢化を今後迎えるか、日本のように進行中であるかのいずれかだと言ってもよいかもしれない。


3.移民受け入れで問題解決するか?

「人口減少と高齢化の問題を論ずるとき、処方箋の1つとして語られることが多いのが、移民受け入れ策である。日本が、他の国で生まれ育った人々から移住したいと思われるような魅力的な国であれば、大変誇らしいことである。そして、ひとりでも多くの人にそのように思ってもらえるように、いかにしてよりよい日本を作っていくかというテーマが設定されるのが、望ましい議論の筋道であろう。しかし、残念なことに、海外からの移住者を歓迎したいという議論は、労働力の増強、高齢者を支える現役世代の確保というような、頭数合わせの算段にとどまっていることが多いのではないだろうか。そして、その算段すらも、日本以外の国でも人口減少と高齢化は進んでいくということを見落としがちだ。

頭数合わせに限定してみても、そもそも、移民受け入れは人口減少と高齢化を阻止する有効な手段たり得るのであろうか。実は、この問いに対しては、5年前の2000年に国連が発表したレポートが実に明解な解答を提示してくれる。「補充移民(Replacement Migration)」と題されたそのレポートでは、フランス、ドイツ、イタリア、日本、韓国、ロシア、英国、米国、EU、ヨーロッパを対象に、人口水準の維持や高齢化進行の回避に必要な移民流入数についての試算がなされている。具体的には、1998年改訂の国連人口予測における中位推計をベースライン(シナリオ1)として、「1995年以降に移民の流入がないケース(シナリオ2)」、「1995年以降における総人口ピークの水準を維持するケース(シナリオ3)」、「同様に、ピーク時の15~64歳人口を維持するケース(シナリオ4)」、「同様に、ピーク時の15~64歳人口の65歳以上人口に対する割合を保つケース(シナリオ5)」に関して、必要な移民流入数を試算し、2050年までの移民総数や平均年間移民数を比較するというものである。

例えば、総人口維持を目標とするシナリオ3において、日本が必要とする移民数は2050年までの累計で1714万人であり、生産年齢人口(15~64歳人口)維持を目標とするシナリオ4においては、累計3233万人もの移民を必要とする。そして、高齢化自体の回避を目標とするシナリオ5においては、2050年までに累計5億2354万人、期中の年間平均でも1047万人の移民が流入することによってのみ、老年人口に対する生産年齢人口の比率が維持される。それも、世界的に高齢化が進行する状況においてである。
ちなみに、レポートの副題は「人口減少と高齢化の解決策か?(Is it A Solution to Declining and Ageing Populations?)」であり、非現実的な試算数値が意味するところは、明白であろう。

問題解決策を移民の増加に求めることはできないとしたら、日本の内に生きる我々が為すべきことは何であろうか。出生率が低下し続ける社会とは、こどもを作り、育てることの費用やリスクが大きい社会を意味するから、社会の歪みや不条理を正していくことが必要であろう。同時に、当面の人口減少と高齢化進行が避け難いことを受け入れ、人口減少と高齢化の進行に伴ってどのような事象が生じ、その中で何が問題となり、何が問題とはならないかを冷静に峻別することが重要である。企業の賃金・雇用体系、税制・社会保障制度・中央政府と地方政府の財政関係などを思い浮かべ、これらに対する影響をひとつひとつ検討するというような地道な取り組みが必要であろう。そのうえで、人口減少と高齢化が進行しても問題が生じないようなシステムを再構築することが不可欠であろう。
今後、世界の過半の国が、人口減少と高齢化への対処という難題にチャレンジすることになるであろう。幸か不幸か、その最先端のチャレンジャーが日本である。失敗事例としてではなく、成功事例としてチャレンジの結果を残し、外なる同胞-同じ課題を有する国々に貢献したいものである。
 

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経済研究部   主任研究員

石川 達哉 (いしかわ たつや)

研究・専門分野
財政・税制、家計貯蓄・住宅

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