コラム
2004年09月06日

定率減税縮小のタイミング

  篠原 哲

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1.来年度の税制改正は定率減税の縮小・廃止が焦点に

まもなく来年度の税制改正に向けた議論が本格化するが、そこでは定率減税の縮小・廃止が実現するかが、最大の焦点となりそうだ。足もとでは景気回復が続いていることに加え、減税の廃止により生じる税財源が、基礎年金の国庫負担割合の引き上げに充てられる可能性もあるため、減税規模の縮小・廃止に向けた論調が強まっていくことも予想される。すでに、昨年末の与党税制改正大綱では、2005・06年度で減税の縮小・廃止を検討する方向性が示されているが、早ければ2005年度より減税規模が縮小される可能性もあるだろう。

定率減税とは「平成11年度税制改正」において家計の税負担を軽減する目的で導入された恒久的な減税のことであり、所得税については税額の20%相当(25万円を限度)が、個人住民税では税額の15%相当(4万円を限度)が控除されるという制度である。当制度における減税規模は、マクロベースでは年間約3.5兆円(うち所得税は約2.5兆円)にも及ぶ大規模なものであるが、世帯ベースで見ても、年収600万円の「標準的な世帯(専業主婦の妻、子供2人の4人家族)」では、年間で所得税と個人住民税を合わせて約5万円ほど税負担が軽減されている計算になる。
 

 
2.懸念される消費の先行き

定率減税は長期に経済が停滞するなか、家計の税負担の軽減を通じて、消費を下支えしてきたものと考えられる。しかし、ただちに減税規模を縮小・廃止できるほどに経済、および消費は改善したのだろうか?
昨年度の後半より、景気は回復の傾向が鮮明になっており、設備投資に比べて回復の遅れが懸念されていた民間消費も、緩やかながらも増加の傾向にある。しかし、その一方で、家計の所得環境は依然として厳しい状況が続いている。
8月に公表された4-6月期の名目雇用者報酬(SNAベース)は、前年同期比で▲0.9%と4四半期連続で減少した。また景気の回復を受けて、今夏のボーナスも増加が期待されていたが、毎月勤労統計の特別給与(5人以上事業所:前年比)では6月▲4.7%、7月▲0.6%の減少となっており、企業収益の改善が、家計の所得に波及するという動きは未だ明確にはなっていない。
さらに、今後の消費動向を考えるうえで、配偶者特別控除の廃止や、厚生年金保険料の引き上げなど、家計の税・社会保険料負担増を伴う多くの制度改正が、すでに決定されている点も忘れてはならない。これらの影響が、家計の可処分所得の減少という形で表面化していくのはこれからである。
実際に、すでに現時点で決定している制度改正による負担増の規模を、先と同様の「標準的な世帯」を用いて試算してみよう。この世帯条件では、2005年は配偶者特別控除の廃止にともなう影響により個人住民税の負担が増加することや、厚生年金および雇用保険の料率引き上げなどにより社会保険料負担が増加するため、合計すると年収600万円の世帯で約4万円(対前年)、年収1000万円の世帯では約6万円(同)の負担増となることが見込まれる。
足もとの消費の回復は、消費者マインドの改善によるところが大きいと考えられる。しかし、所得が増加しないうえに、税・社会保障による負担増も加わるなかでは、今後も消費の回復が続いていくかは疑問である。


3.定率減税の縮小による影響

上記の試算に、仮に定率減税の減税規模が縮小されるとした場合の負担増額も加えてみよう。定率減税がどのように縮小・廃止されていくかは、さまざまな案があるため、現段階では不透明であるが、ここでは、一気に定率減税の廃止ということではなく、2005年1月より所得税の定率減税の減税規模が半減(税額の10%を控除、上限は12.5万円とした)されるものとした。
試算の結果は下の図に示しているが、上記の「標準的な世帯」においては、定率減税の縮小による影響だけで、年収600万円の世帯で約1.7万円、年収1000万円の世帯では約6.3万円の税負担増となる。このため、この世帯における2005年の税・社会保障負担額の合計は、年収600万円の世帯で約5万円(対前年)、年収1000万円の世帯では約12万円(同)、年収1200万円以上の世帯では約16万円程度(同)の増加になることが想定される。(注:下の図において、年収1300万円以上の世帯で個人住民税の負担増加額が少なくなっているのは、配偶者特別控除の廃止による影響を受けないためである。)

 

 


景気は回復を続けているものの、その回復は企業部門にとどまっており、いまだ家計の所得環境が改善するまでには至っていない。さらに今年度後半からは、家計の負担増をともなういくつかの制度改正の実施もすでに決定している。このなかで、これらの制度改正が消費に及ぼす影響を見極めないうちに、定率減税を縮小・廃止し、家計にさらなる負担を求めることは、消費者マインドを冷やし、消費を停滞させてしまうというリスクをより高めることにもなろう。定率減税の縮小を実行するのは、家計の所得環境が明確な改善に転じた後でもよいのではないだろうか。
 

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