コラム
2002年02月18日

高齢化が家計貯蓄率に与える影響

経済研究部 主任研究員   石川 達哉

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1.国際的順位が下がった日本の家計貯蓄率

家計貯蓄率といえば、かつては、先進国の中で最も高い水準を示していたのが日本であった。しかし、そうした「常識」はもはや過去のものとなりつつある。2000年における日本の家計貯蓄率は10.3%であり、OECD諸国中の第7位にランクされるものの、水準としては中位値(オーストリア、8.2%)を2.1%上回るに過ぎない。米国と比較すれば、歴然とした差が存在するが、少なくとも、日本は家計貯蓄率が特別に高い国とは言えない。
   家計貯蓄率には様々な社会・経済要因が関係していると考えられる。これまでの実証研究からは、各国共通の要因として、人口構成、1人当たりの実質所得増加率、財政収支、失業率、インフレ率、消費者信用制度などの影響力が大きいことが明らかにされている。このうち、人口構成が重要な役割を果たしていることは想像に難くない。引退した高齢者の主たる収入は公的年金であり、生活資金はそれだけでは十分でないから、現役時代に貯えた資産を取り崩して使わざるを得ない。所得を上回る消費、すなわち、負の貯蓄を行うのが通常の高齢者の姿であり、そうした高齢者が人口に占める割合が高まれば、社会全体の貯蓄率は低下するからである。
   90年代以降の日本に関しては、財政赤字の拡大と雇用環境の悪化が将来に備えて家計貯蓄を増やす方向に作用したため、高齢化による効果は一部相殺され、貯蓄率が顕著に低下しているわけではない。しかし、他の国々と比べて急速度で進んだ高齢化が家計貯蓄率に着実に影響を及ぼしていることは、「家計貯蓄率の国際的順位」の低下が十分に物語っている。
   さらに重要なことは、高齢化の進行はこれから本格化することである。

2.老年従属人口比率が1%上昇すれば、家計貯蓄率は0.51%低下

1月末に国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の将来推計人口(中位推計)」によると、65歳以上人口の割合は、2000年の17.4%から、2010年に22.5%、2020年には27.8%へと高まり、2050年に35.7%に達する見込みである。社会的な扶養負担を表す「老年従属人口比率(65歳以上人口÷15~64歳人口)」は、2000年25.5%、2010年35.2%、2020年46.4%、2050年66.5%と、上昇の一途をたどる。
   この老年従属人口比率が1%上昇した場合に家計貯蓄率がどの程度変化するかに関しては、国際データを用いた実証研究・計測が積み重ねられており、-0.09%から-1.36%までの間の値が報告されている。筆者が最近行った研究で得た計測値「-0.51%」を単純に当てはめると、高齢化の効果のみで家計貯蓄率は2020年にマイナスに転じる試算結果となる(注)。ただし、他の条件を不変にしてである。

3.家計貯蓄率の低下は好ましいことか、それとも、好ましくないことか?

過去30年間を顧みると、日本全体の貯蓄投資バランス、すなわち、経常収支の基調的黒字を支えてきたのは家計部門の貯蓄といっても過言ではない。家計貯蓄率が低下すれば、経常収支とその背後にある資本収支、さらには国際的な資金フローや実質為替レート、実質金利が変化する可能性が高い。その意味で、日本の家計貯蓄率の行方に対する国際的な注目度も高い。
   しかし、誤解してはならないのは、家計貯蓄率は、「水準が高ければ良い、低ければ好ましくない」とか、逆に、「水準が高いのは好ましくないが、低いのは良い」という言い方が当てはまる性質のものではないことである。家計貯蓄率が低い状況、すなわち、現在の消費が重視される社会構造であれば、肝心なのは、それによって現在の生活が充実しているかどうか、また、十分なストックがすでに蓄積されているかどうかである。家計貯蓄率が高い状況、すなわち、将来への備えが重視される社会構造であれば、貯蓄が有効に投資されて、果実をもたらし将来の消費と生活の向上に役立てられるかどうかが問われなければならない。かりに、高齢化の進行によって将来の家計貯蓄率がマイナスになって、経常収支が赤字化したとしても、その時までに貯蓄を通じて積み立てられた資産によって充実した国民生活を送れる状況であれば、問題はないはずである。
   貯蓄率の水準が高くても低くても、重要なのは、生活水準の向上に家計貯蓄が有効に使われているか、あるいは、有効に使えるような蓄積のされ方がなされているどうか、に尽きるであろう。

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経済研究部   主任研究員

石川 達哉 (いしかわ たつや)

研究・専門分野
財政・税制、家計貯蓄・住宅

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