コラム
2001年08月06日

流動性の向上が求められる労働市場

  末廣 譲凡

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1.厳しさ続く雇用情勢

雇用情勢の悪化が続いている。90年代初めに2%程度であった完全失業率は、同年代半ば以降は上昇を続け、本年5月には4.9%(季節調整値)に達している。こうした厳しい雇用調整が続いているにもかかわらず、人件費は売上高比でなお高水準に止まっており、更なる調整が必要となるものと思われる。実際、本年6月の日銀短観でも企業がここにきてなお雇用について過剰感を募らせてきていることが明らかになっており、雇用については引き続き厳しい状況が続くことが予想される。

2.労働市場を巡る最近の傾向

(1)若年労働者により厳しい影響
90年代半ば以降、雇用環境は全体として厳しさを増しつつあるが、特にその影響を大きく受けていると思われるのが若年層である。15~24歳あるいは25~34歳といった若年層の完全失業率は以前からその絶対水準が他の年齢層に比べ高かったが、90年代ではその悪化テンポが他の年齢層を大きく上回っており、昨今の雇用環境の悪化は若年者層を中心に大きなしわ寄せをもたらしている。これは、企業側が雇用調整を行う際、既存従業員の雇用維持を優先するため、新卒の若年者層をはじめとする外部労働市場からの新規採用を抑制していることが大きな原因のひとつになっているものと考えられる。

(2)失業期間の長期化
更に90年代を通じて失業期間は長期化する傾向にある。失業期間の長期化は失業による経済的損失をこれまで以上に大きなものとする。このことは米国との対比でより鮮明となる。すなわち、米国では完全失業率こそ本年6月現在で4.5%(季節調整値)と、わが国のそれと大きく異ならないが、失業期間では1年以上失業状態にあるものは全体の8%程度に止まり、70%以上は3ヶ月未満となっている。これに対し、わが国では、1年以上失業状態にある者の割合が25%を超えるなど、ひとたび職を失うと、容易に再就職先を見つけることが出来ない状況となっている。

このような流動性のない労働市場は、新たに労働市場に参入しようとする若者や何らかの理由で職を失った求職者などには過度に大きな負担を強いることになる。また、わが国経済全体にとっても、より高付加価値を産み出す産業構造への転換が求められる現在のような時期において、流動性のない労働市場を抱えていることは、変革のスピードを遅らせるものとして好ましくない。スムーズな労働力移動を促すような、労働市場の活性化が求められる。

3.労働市場の流動性確保に向けて

労働市場の流動性が損なわれる原因の一つに労働者保護を目的とした法的規制による既存雇用者の解雇コストの高さが挙げられることがある。労働者保護規制などの強化により既存従業員の解雇がしづらくなると、企業は新規採用に一層慎重になり、結果として、労働市場が不活発なものになるとされる。わが国の場合にも、企業による解雇権の行使には法的に(正確には判例によって)厳しい制限が加えられており、このことが、退職金を含む賃金制度や日本的な経営風土などと相俟って、労働市場の流動性を抑制する働きをしてきたものと考えることができよう。

こうした考え方に基づけば、労働市場を活発化させるには、企業の解雇権行使に関する法的制約を緩めることが重要であり、現在、政府が解雇法制に関する検討を行っているのはまさにこうした考え方の反映と思われる。しかしながら、現在のように雇用不安が高まっている時期に、解雇法制の見直しを単独で行うことが適切とは言いがたい。新たな雇用機会の創出や職業紹介機能の向上、教育・訓練制度の充実、労動力の流動化を促すような賃金・退職金制度への移行など総合的な対策が求められよう。

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