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- 東アジアの中間所得層の生活保障意識 -伝統社会の相互扶助システム、現行社会保障制度を含めた考察-
1.
経済成長の中で出現した東アジアの大都市における中間所得層は、豊かな消費生活の味を知ってしまった分だけ、生活リスクに対する感覚が鋭敏、つまり、生活保障意識が強いと考えられる。彼らは、自分の万一の場合や老後の生活を考え、公的な社会保障制度や企業の制度だけでなく、個人的な貯蓄・保険などの活用が活発である。
2.
アジアの伝統社会では、地域によってその内容は様々であるが、親族あるいは地域を中心とした相互扶助の慣習が存在しており、近代化の中でもその伝統・慣習は残されている部分がある。大衆に比べると近代的なライフスタイルであるといえる中間所得層であっても、万一の場合や老後の生活は、社会保障制度や金融資産の保有ではなく「家族や他人に頼る」とする層が一定の割合で存在することなどがその理由である。
3.
万一の場合や老後の生活についての意識は、伝統的な価値観・習慣や現在の社会保障制度の整備水準、あるいは、社会体制などによっても異なる。今回取り上げた4都市は、制度依存型の上海、自助努力型のバンコク、ジャカルタ、身内依存型のマニラと特徴づけられるが、社会主義体制と市場経済化の中で整備されつつある社会保障制度に依存する上海、社会保障制度が未整備のための自助努力をせざるをえないバンコク、伝統的には相互扶助慣習を持ちながらも近代化の中で個人主義傾向をより強めているジャカルタ、親族の結束の強さから未だに諸制度よりも家族や他人への依存を考えるマニラといった特徴が明らかになった。
4.
アジアの中間所得層は、経済の先行きが不透明な中で、自分の生活保障意識をより強めていくものと思われる。欧米の中間層が単なる個人主義ではなく、社会における市民としての自覚を強く持っていることを考えると、伝統的な相互扶助の思想を捨て、このまま個人主義の傾向を強めつつある東アジアの中間所得層には、「中間階層」としての社会的な役割を担っていけるかという点において、現職階では期待しにくい状況である。社会保障制度の整備においては、好ましい伝統的な慣習を貫いている価値観の上にどのように近代的なシステムを構築するか、そして、それにはどのようにして中間階層を巻き込むかまで含めた新たな検討が必要であると思われる。
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